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幾つもの露店と人々の交々とした煌めき、終わりを知らない夜通しの祭囃子の喧騒。そして都琉の幼げで麗らかな声と眼差し。
人間が幸福を感じるのは、やはりこのような実に単純な一瞬であろうか。
もしそうならば、私はやはりこの一瞬に介在する私の自我を幸福の事実として認めなければならなかったし、私は雑沓の中で自分もまたその一部として存在している事実を幸福というのだということを未だ知らず、だが知らないがゆえにこの瞬間を幸福の事実として曖昧に認めることが出来たのかもしれなかった――私は都琉の手を強く握り返した。それが本当に言いたかった孤独の答えであるかのように。
都琉はもはや驚いた顔をするわけでもなく、この時間を永遠に掌の中に閉じ込めるかのように、非常に大人びた顔で指をさらに深く絡ませてくる。柔らかいというよりはもっと、毅然とした塊がそこに感じられた。強く、熱く、静かな、都琉の鼓動とでもいうべき拍動と私は重なった。