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私は立ったまま、けれど二人の手はまだしっかり握られている。まるではしゃぎ回る仔犬のリードを保っているような気持ちでいながら、私は目の前のいかにも粗暴そうな顔つきの店主の料金催促に応対した。
「嬢ちゃんべっぴんやから、特別に一匹サービスしたるわ。大事にしたってな」
「あー、おんちゃんズルい。うちにもサービスしてや」
「おチビの嬢ちゃん、あんた六匹もすくっといて何言うんや。もうそれ以上取られたらな、うちは商売上がったりやねんで」
都琉の金魚すくいの結果は、角刈りの中年男の見え透いた下心を加えて三匹になった。
「ああ私、こんなに楽しいお祭り初めてかもしれない。善生くんはどう? 楽しい?」
暫時都琉の無垢な笑顔に困った挙句、「そうかもなぁ」と私は誤魔化すように答えた。都琉は「そうかも、って。可笑しい」と安サーカスのピエロでも見るかのように笑ったが、しかしこれ以上の喜びの表現を、私は他に知り得なかったのかもしれない。