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金魚の尾鰭のような可愛らしい浴衣を靡かせる子どもたちが、鬼ごっこでもするように懸命に私の脇を駆け抜けてゆく。するとまだ高校生に過ぎない私たちも、子どもにかえったような気持ちで夕暮れてゆく夏空を歩くのは別に不自然にも思えなかった。
「あ、金魚すくい。私もやりたい! ね、善生くんも!」
都琉がいきなり高揚した声で私に言うと、彼女は強引に私の手を握って駆け出した。
私は何が起きたか分からないそのままに、すれ違いざまにスリに遭ったように焦って駆け出す。自然に結ばれた手、しかし実に巧妙なたくらみのようにも思える都琉の手は、少しばかり汗っぽい熱気を帯びて、私の意表を突くには充分だった。
都琉は普段とは見違えて実に子どもっぽい幼気な様子で、難解なパズルを何時間もかけて完成させた小学生が、あまりの喜びで何も考えずにただ叫びながら家から飛び出すような、理知的な狂騒にも似た素早さで私を引っ張るまま離そうとしない。
平べったい水槽の前で、都琉は浴衣の尻を赤らんだかかとに付けてしゃがみ、吊り下げ電球の光をきらきらと翻す水面、そして紅、黒、橙の群れの揺動と散逸に、一等嬉しそうに瞳を輝かせて、周囲の一回りも背の低い子どもたちに混ざって笑いながら、幼げな喜びをはじけさせている。