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「ああ、そうなんだ……。一人で待たせちゃってごめんね」
都琉は、彼女が待ち合わせに遅れたことを私がなんとも思っていないことなど知らなさそうに、申し訳のないはにかみを見せた。私にはその微笑が、全編白黒で撮られたはずの映画中に、ただ一輪だけ鮮やかに着色された花の止め絵の幻想を観間違えたようにも思われた。
「髪、切ったんだ」
「そう、夏だし、伸ばしすぎちゃうと面倒だから……」
これといった感想を求められるようなこともないので、私はとりあえず黙って相応に微笑した。
都琉は腰まで伸ばしていた海藻のような緩い癖髪を、ばっさりと肩甲骨くらいまでの長さに切り揃えていた。きっと普段は額をカーテンのように覆っているはずの前髪を、枯淡な花柄の髪飾りで左に除けて、編み込んだ横髪を後ろに回してハーフアップにした後れ毛を金色の簪で留めている。薄い水色地に小さく月見草の描かれた、控えめな浴衣の襟首に露わな薄桃色の肌は、残暑の激しい晩夏の外遊に軽く湯だった、由緒ある貴族令嬢のような血色をしていた。
「よさこいはどうだった?」