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……こう考えるとたちまち色んなことが楽になる。肩の荷が下りる。
私は今日これから、本質的には幸せでいる必要も、不幸でいる必要もない。ただ綺麗な箱の中で綺麗な模様の標本昆虫のように大人しくじっとしていれば、私は勝手に幸せであると観測されるのだから。
ああなぜこんな簡単なことに私はもっと早く気付けなかったのだろう?
何かに誘《いざな》われるわけでもなくふと無意識に祭の景色を眺めると、その狂ったような歓喜に染まる雑沓をかき分けながら、色とりどりの花の中から制限時間内に自分好みのものを選んでブーケを束ねるように、大急ぎなほど草履の鼻緒の指間を赤くさせて、息せき切らし駆け寄ってくる都琉が見えた。
やっと待ち合わせた都琉と目が合ったかと思うと、瞬間彼女はほろ酔ったようにぽっと頬を赤らめて目を逸らし、二度三度深呼吸して息を整えて、俯きがちに両手ではたはたと顔を扇ぐ。
「遅くなってごめん……。あれ? 喜子ちゃんは?」
「困ったやつだよ。一昨日急に、来れなくなったとか言ってきて。友だちと別の祭りに行くんだって」