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言うまでもなく冷蔵庫の中身は、以前喜子が遊びに来たときから一週間もしないうちに、元通りまとめ買いの乾麺パスタとインスタントパスタソースのレトルトパウチだけになっていた。
照りつける太陽の熱線に焼き殺されかねないほど陰気な自分でも、サファイアのように輝く地中海に暮らす情熱的で豊熟陽気なイタリア人たちに、一週間あたりの小麦麺の摂取量だけなら十分張り合えるだろうという、自嘲に満ちた冷笑が口から漏れる。
「またそうやってあばさけて。私は別にそんな下らん冗談が聞きたいわけじゃなくて、なんなら警告のつもりなんやけどね。パスタソースのレンチンパックの数だけ、都琉さんにあることないこと言っちゃうけど。あとついでに肩パンする」
「おいおい、なんで都琉さんが出てくんだ」
喜子が通話の向こうで、意地悪いへそ曲がりな顔をしているのが容易に想像できて、私はそんな喜子をあしらうように、呆れたように失笑した。ただ実際は、喜子の普段よりやや優しい口調から、変に余所余所しい、厭に兄想いな配慮を感じたために、私はできれば笑っていたかったのである。