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人酔いしたなどと噓をついたくせに、人通りの少ない風俗街から敢えて雑沓夥しい方面へ歩き出すと、西洋人形のような顔の女が近くの薬局から出てきてこちらに歩いてくる。腕にぶら下げた半透明なビニール袋の中には、野卑な男たちを相手にするために必要な商売道具でも入っているのだろうか。
立ち去ろうとする私と擦過する女はそのとき一瞬目が合って、それは私をからかうように妖艶に笑ったかと思うと、また何食わぬ顔をして、そして私の予想に大きく反して、いかにも元気旺盛なスキップ歩調で真昼の風俗街の奥へ消えていく。
ああきっと生きようとする限り、私の居場所などあるはずがない。そうに違いない。
第三章より、毎日21:00の更新になります。