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禁域  作者: 禅海
第二章
137/204

137

 友人の一人が指をさして言った。「おい、むこうに行きたいと思わない?」

 その指が指し示すのは、教師たちに立ち入りを禁止されている新宿歌舞伎町風俗街の入り口である。

「いやあ、この服装じゃね」また別の一人がださい校章の刺繡入りのシャツを不服そうにつまみながら答える。

「でも行きたいんだろ?」「当たり前だろ。俺らみたいなモテない男が最後に頼れる駆け込み寺だぜ? 俺はな、前々から決めてんだ。大学に受かって東京に出たら、まずは巨乳巨尻の女だらけの風俗に行くってな。いつまでも童貞童貞馬鹿にされるのはごめんだね」「ハハハ、笑える。お前じゃたとえ何擦り何抜きされたところで、顔が顔だから永遠に童貞眼鏡くんさ。勘違いしてるだろうけど童貞か非童貞は人生の経験値で決まるんじゃない。結局は生まれ持った顔、服装、態度、性格だぜ」「ハッ、そう言ってどうせお前俺を挑発して違反させたいんだろ? 卑怯な奴。お前こそ死ぬまで童貞面だよ」

 こんな醜い罵り合いの輪の中に、私は喜んで参加する気にはなれなかった。まったく呆れてしまうほど節操のない奴らめ。


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