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見上げた商業ビルの大型広告塔にはこう誇大広告されている。『さあ、あなたらしく』……馬鹿馬鹿しい。私がノンブランドの既製品でいい加減に服装を決めてしまうぐらいファッションにこだわりがないのと同様に、この見せかけだけの豊かな街を行く若者は、『自分らしさ』を自ら涵養することを否定して、流行りの、人気の、既製品の『自分らしさ』を身に纏って満足しているのだ。そうやって大手を振って喜び勇んでお好みの『自分らしさ』のグループに無意識に染まっていく。
私が雑沓を憎む理由の一つはこれではないか? 本当は誰よりも自分らしくありたいくせに『自分らしさ』を隠しながら、一方で勧められた『自分らしさ』をなんの疑いもなく、なんの苦しみもなく披露する他人を憎悪する私の、醜い葛藤を描いた大舞台。私が憎むのはこういう世界、そしてそれでもこの世界にしか居場所のないちんけな私自身だ。
私が私の宿命を憎むこと、それは私がずぶ濡れで途方に暮れる濁流の対岸で、やっとの思いで溺死の危機を逃れて抱擁し合う人々を憎むようなものだ。