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七三分けの学務係に、三十人程度が入るには勿体ないほどに広い講義室へ通されてから間もなくすると、オリエンテーションは滞りなく始まった。七十手前という白髪白髭の堅物そうな名誉教授が、演壇の舞台袖から杖をつきながら現れて教壇につき、大きなスクリーンに色々と映しながら、痰が喉によく絡みそうなしゃがれ声でつべこべと話し始めた。
最初は大学の学術的意義について、それからこの大学で学ぶための心構えなど、そういうありきたりなことを話して、それから、老人はそれまでより少し、神妙な面持ちをして、きっとそれこそが本題だったのだという風に、一つ大きく咳払いをすると、
「諸君は、憲法第九条というものを知っているかね。この国の最たるもの、平和憲法である。それが今の与党は、この平和憲法を改憲しようなどという。全くけしからんことだ」