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三
米原駅の新幹線のホームに、不憫なアゲハ蝶の屍体が干からびていた。今夏の酷暑はまだずっと先まで及ぶだろう。
夏季休業中の大学見学という名目で教員たちが仕切る一泊二日の旅行行事(私の高校には二〇〇〇年代にもなって修学旅行という行事が無かったのである! つまりこのような小集団ごとの大学見学は実質的な修学旅行だった)で、私は校内の成績上位の三十名の文系生徒のうちの一名として、東京の法科系で有名な私立大学へ行くことになった。
このような旅行に無知で純粋で世間知らずな田舎者が抱く憧れとは、今昔例外なく華やかな都の暮らしであるし、実際大半の生徒たちの目的とは、この華やかな生活の幻想的描像を、より現実に近づけようという切なる試みに違いなさそうである。私には同級生たちが新幹線の中でそういった話をしてうつつを抜かす様子が、なんとも冷笑を誘う社会構図に見えた。