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禁域  作者: 禅海
第二章
122/204

122

 するとこの逡巡(しゅんじゅん)の際、あの幼き日から私をずっと(たぶら)かし続けている女神の肉体が、頭を(よぎ)ったのである。

 まるで私が夜な夜な自分自身に与える優しい愛撫を、その耽美(たんび)の対象たる、ヌードデッサンモデルたる彼女は知っていて、私のみすぼらしい自涜(じとく)の罪を蔑むかのように――するとそこで私は側頭部を金槌で殴られたような衝撃で目が覚めてしまった。そして安心は不安へと一変した。

 いやそもそも安心と不安は、人間が未知の謎に数理的解明を与えれば与えるほど新たな謎を生み出すように、ある場面でどちらか一方のみが発現するとか、両者に可換性があるとは言い切れないが、するとともかく今私が抱く、いわば不安と安心の量子的縮退(デジェネラスィ)がもたらす可能性とは、つまり私が都琉のために為せる行為は、どれも嘘で塗り固められた自己満足な奉仕に過ぎないということである。

 またそこに認められる精神と肉体の甚だしい乖離(かいり)現象は、私自身の行動や意志を介さず生じるという点で、もはや一種の、かつて私があれほど憎んだはずの洗脳的宗教的思想のようなものにも近いといってよかった。


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