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「新人賞? そりゃ楽しみだね」
「でも最初に読んでもらうのは善生くんじゃないと嫌」
「……困ったなぁ。それは」
心なしか幸せそうに揺れる都琉の後ろ姿を追う実感に、私は確かに微かな幸福のようなものを認めずにはいられなかった。
ただ、それよりも、同時に私は、ある明確な自覚の芽生えをずっとはっきり確認していた。幸福が幸福と認められるとき、そこには必ず付随して抑圧しがたい瞭然とした歓喜や感激が現れるはずなのに、どうしてか今そういったものが己の裡に微塵も現れないことに、私は明らかに疑問だった。
確かに都琉との間に無言の幸福らしきものを感じたはずなのに、それ以上の如何なる期待や興奮や緊張――幸福な未来が、その存在そのものが疑わしいくらい想像できない。
すると自分の予想していた幸福というのはこんなに冷淡なものだったのだろうか? はたまた自分の感受性というものが単に無味乾燥で貧しいだけなのか? もし何か他に理由があるとすれば、それは……。