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都琉が丸広い額に眉根を寄せて、少し困り顔で微笑みを浮かべた。
夜半の暑熱に耐えかねた都琉は、髪を後ろにまとめてポニーテールにして縛り、それが歩調に合わせて前後左右にふらふらと揺れている。そのたおやかな毛先が彼女の露わな肩や首筋に触れるたび、フランスに住む祖母から送られてきたらしい、本場ヨーロッパのオー・デ・コロンの匂いが夜風に漂う。
「あれね、僕もいつも困ってばっかだよ。せめて天気予報がもう少し仕事をしてくれたらいいんだけど」
私も皮肉っぽく笑って答えた。薄い香水、そして爽やかな汗の匂いが鼻に近い。
喜子を乗せた電車が二〇時一一分の定刻通り駅を出たあと、見送りを終えた私と都琉は、互いに微妙な距離を保ちながら横並びで帰路に就いた。
遠い夏虫の声を運ぶ青嵐が、日夜冷めきらぬ豊饒の草原の宴を伝えている。
「だけどいい娘だね。話してるうちについつい引き込まれちゃって。LINEも交換しちゃった」