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鏡の宿で吉次が泊まった宿に強盗が入る事1

■承安4年(1174)2月

 鏡の宿は都からそれほど離れていない場所なので、人目を気にしなければならなかった。

[訳者注――鏡の宿は早朝に都を出た旅人が最初に泊まる場所だったので、それほど離れているわけではない]


 そのため吉次は遮那王を遊女たちから離れた末席に座らせたのだが、そのことを申し訳ないと思っていた。


 酒を飲んでたけなわになった頃、宿の長者(女主人)が吉次の袖を掴んでこう尋ねた。


「貴方は年に一度か二度ほどこの道を通りますよね。でもこんなに美しいお稚児さんを連れているなんて初めてのことではありませんの。貴方のお身内の方ですか? それとも他人ですか?」


「身内ではない。だが他人というほどでもないな」


 それを聞いた長者ははらはらと涙を流す。

[訳者注――女の涙に弱いのは古今を通じて変わらない]


「まあ、悲しくなるようなことをおっしゃいますねえ。これまで生きてきてこんなに悲しい思いをしたのは初めてですよ。昔のことがまるで今あったかのようです。あのお方の立ち居振る舞い、それに顔かたちはまるで源義朝殿の二男、朝長殿にそっくりではありませんか。ちょっとしたお言葉まで瓜二つですよ。保元の乱(1156)、平治の乱(1159)が終わってからというもの、源氏の子孫はあちらこちらに閉じ込められているそうではありませんの。成人して思うところもおありなのでしょうが、よく考えてからご実行に移されるべきなのではないですか。壁に耳あり、岩に口ありとも言います。草の生い茂る庭園にあっても紅花は事に目立つもの。優れたお方はどこにいたって人目に立つのですよ」

[訳者注――「障子に目あり」ではないのが面白い。なお障子は平安時代末期ごろから使われるようになる]


「う、うむ。だがそのような者ではないのだ。なんというか、身内のような者とでもいえばいいか」


「ふふふ。なんとでも言えばいいでしょう」


 そう言って長者は座敷を立って遮那王の袖を引くと、上座に座り直させた。

 それから酒をすすめた。


 そして夜が更けると、長者は自分の部屋へ遮那王を誘った。

[訳者注――当然、おセックスをしたに違いない。義脛、齢十六にして脱童貞である]


 吉次も酒に酔って寝入ってしまった。

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