はじまる日
リーンゴーンリーンゴン
幸せの鐘の音が鳴り響く。どれだけこの日を待ちわびていたか。
愛する人と歩く道。愛しい人の笑顔。そして、二人を祝う人たち。
こんな日が来るなんて、夢にも思っていなかった。
今日はいつにも増して太陽がキラキラと輝いている。まるで、今日というこの日を祝福しているようだ。
「フェリシティ様、とても美しいです」
フェリシティの専属侍女であるアンナは自分のことのように嬉しそうだ。もう一人の専属侍女であるアイラも。
「ありがとう、アンナ、アイラ」
フェリシティはすでに泣きそうだ。幼いときからずっと一緒にいたアンナだけだはなく、うさぎ姿のとき、近くにいてくれたアイラにも祝ってもらえたからだ。
「泣くのはまだ早いですよ」
アンナはそう言いながらも、泣きそうだ。妹のように大切な存在であるフェリシティが、やっとこの日を迎えられたからだ。
「泣いてしまったら、折角の化粧が崩れてしまいます。フェリシティ様は花嫁様ですから」
そう、今日フェリシティは結婚する。世界で一番愛しいウィリアムと。
花柄のレースの袖に動くたびにふわふわと靡くドレスを着たフェリシティは、人生で一番の幸せを感じている。
「フェリシティ、いいかい?」
三人の間にしんみりとした空気が流れると、部屋のノックの音が聞こえた。フェリシティがすぐに返事をすると、ウィリアムが部屋に入ってきた。
「とてもきれいだ……」
まるで女神を見たかのように、ウィリアムは感嘆の声を上げた。
「フェリシティの宝石のように美しい青い目も、透き通るほどの白い肌も、僕たちの思い出を表すアッシュグレーの髪も」
そんなことを言われてしまえば、フェリシティの体中から湯気が出てしまう。すでに心臓は破裂してしまうのではないかと思うほど、フェリシティの心臓は鳴っている。
「そうやって、すぐ赤くなる頬も」
ウィリアムはフェリシティが蕩けてしまうほどの笑みを見せた。心臓が何個会っても足りない。フェリシティはウィリアムといると、ドキドキしっぱなしだ。
「旦那様、奥様、そろそろ時間です」
執事が時間を知らせにやって来た。もうそんな時間か。
「フェリシティ、行こう」
ウィリアムがフェリシティの方に右手を出した。
「はい!」
フェリシティはその手に自身の手をそっと乗せた。
式場には、思い出の品である赤い薔薇があちらこちらに飾られている。また、至る所にうさぎのマークがある。
この式場は、まるでフェリシティとウィリアムの愛の軌跡を集めたように感じられる。
「汝、ウィリアム・ハーシェルは妻となる者を一生愛することを誓いますか」
「誓います」
「汝、フェリシティ・ロンバークは夫となる者を一生愛することを誓いますか」
「はい、誓います」
フェリシティもウィリアムも嬉しそうに、神に宣誓するように答えた。
「それでは愛の口づけを」
二人は向き合った。フェリシティは恥ずかしくて、ウィリアムの顔を見られない。
「フェリシティ」
そのとき、ウィリアムがフェリシティの頬に手を添え、甘い声でフェリシティを呼んだ。それにフェリシティはついにしてしまうのか、という緊張で心臓がバクバクしている。
「愛しているよ。この先もずっと」
「私も愛しています……! ずっと、ずっと」
目が潤んでしまいそうだ。こんなに幸せでいいのかと思うほど、フェリシティは幸せを感じている。きっと、世界で一番幸せなのは自分だ。
本当にいろいろなことがあった。
うさぎとして過ごしていた日々が懐かしい。あの頃はこんな幸せが手に入るなんて、思いもしなかった。
あの日、出会ったのがウィリアムで良かった。逃亡した日、捕まって良かった。
(この先もずっと愛しています)
そう心で思いながら、フェリシティはウィリアムとそっと口づけた。
お互いを愛おしむように見つめる二人の近くには、二人を祝う人たちがいる。そして、少し離れたところに、二人を祝う動物たちの姿があった。
人間にも獣人にも動物にも愛される二人。誰もが二人の幸せを祈っている。
今日はフェリシティとウィリアムが共に歩くはじまりの日である。




