4.大切な思い出の品。
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「お母様……」
少女は病床の母に声をかけた。
だがしかし、彼女の母親が目を覚ますことはない。それでも、少女は決して落胆することはなかった。むしろ病状が病状なだけに、健やかな寝息をたてていることに安堵する。もし、この束の間の対面さえも失われたなら、その時こそ少女は泣いてしまうだろうと思われた。
「今日は、修繕師に依頼をしてきました。お母様の思い出の品を……」
ベッドの隣にある椅子に腰かけて。
少女――アーシャは、ずいぶんと痩せてしまった母の手に触れた。
「だから、どうかもう少しだけ。もう少しだけ、お待ちくださいね」
そして、願うようにそう口にする。
駄目だと分かっていた。決して、泣いてはいけないと。
それでも無意識のうちに、アーシャの頬には涙が伝い落ちていった。
◆
「不治の、病……?」
「あぁ、そうなんだ」
「………………」
――ドレスの修繕を引き受けた、その翌日のこと。
約束の通り、リンドさんがボクの店を訪れた。
今日の営業はもう終わり、という頃合いだったので、結果として二人きりで話すことに。その中で語られたのは、アーシャの母親の容体についてだった。
彼曰く、彼女の母は不治の病に侵されているらしい。
医師や治癒術師、その他あらゆる分野のエキスパートが匙を投げた。正真正銘の原因不明、誰も根治不可能である病気。
それによって現在、アーシャの母親は今も苦しんでいるそうだ。
「昨日、アーシャ様の気が立っていたのはお母様の件があったからだね。ずいぶんと失礼な物言いをしてしまったこと、私が代わりに謝罪するよ」
「いえ、そんなこと。ボクはなんとも思っていないですから」
「すまない。本当に……」
こちらの制止を振り切るように、リンドさんは深々と頭を下げる。
それをやめてもらうため、ボクは慌てて話題を変えるのだった。
「そ、それで……。あのドレスは、もしかして――」
「あぁ、そうだね。そちらが、本題だった」
すると相手も頷いて、こう答える。
「あのドレスは、アーシャ様のお母様――ミランダ様にとって、思い出の品なんだよ。大切な方から贈られた、という話だ」
「…………」
「幼少期はそれはもう無邪気に、毎日着ていたらしい。ボロボロになっても、名うての修繕師に依頼をして直してもらっていたほどに、ね?」
「なるほど……」
その話は、とても胸に響くものだった。
ボクは改めて、袋に仕舞っていたドレスを持ち出して確認する。そんなこちらに、リンドさんは真剣な声色でこう言うのだ。
「どうか、キミの力を貸してはくれないだろうか」――と。
これはアーシャだけでなく、自分からの願いでもある。
そんな気持ちが、言葉にこもっている気がした。
「リンドさん……」
そこまで言われたら、断るなんてできない。
まだまだ未熟なボクだけど、出来る限りのことをしたかった。だから――。
「やらせてください。こちらからも、お願いします……!」
力強く、そう答える。
その瞬間に、ボクの胸には熱い火が灯ったように思えるのだった。
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