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4.大切な思い出の品。

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あとがきも、お読みいただけると幸いです!!









「お母様……」



 少女は病床の母に声をかけた。

 だがしかし、彼女の母親が目を覚ますことはない。それでも、少女は決して落胆することはなかった。むしろ病状が病状なだけに、健やかな寝息をたてていることに安堵する。もし、この束の間の対面さえも失われたなら、その時こそ少女は泣いてしまうだろうと思われた。



「今日は、修繕師に依頼をしてきました。お母様の思い出の品を……」



 ベッドの隣にある椅子に腰かけて。

 少女――アーシャは、ずいぶんと痩せてしまった母の手に触れた。



「だから、どうかもう少しだけ。もう少しだけ、お待ちくださいね」



 そして、願うようにそう口にする。

 駄目だと分かっていた。決して、泣いてはいけないと。



 それでも無意識のうちに、アーシャの頬には涙が伝い落ちていった。







「不治の、病……?」

「あぁ、そうなんだ」

「………………」



 ――ドレスの修繕を引き受けた、その翌日のこと。


 約束の通り、リンドさんがボクの店を訪れた。

 今日の営業はもう終わり、という頃合いだったので、結果として二人きりで話すことに。その中で語られたのは、アーシャの母親の容体についてだった。


 彼曰く、彼女の母は不治の病に侵されているらしい。

 医師や治癒術師、その他あらゆる分野のエキスパートが匙を投げた。正真正銘の原因不明、誰も根治不可能である病気。

 それによって現在、アーシャの母親は今も苦しんでいるそうだ。



「昨日、アーシャ様の気が立っていたのはお母様の件があったからだね。ずいぶんと失礼な物言いをしてしまったこと、私が代わりに謝罪するよ」

「いえ、そんなこと。ボクはなんとも思っていないですから」

「すまない。本当に……」



 こちらの制止を振り切るように、リンドさんは深々と頭を下げる。

 それをやめてもらうため、ボクは慌てて話題を変えるのだった。



「そ、それで……。あのドレスは、もしかして――」

「あぁ、そうだね。そちらが、本題だった」



 すると相手も頷いて、こう答える。



「あのドレスは、アーシャ様のお母様――ミランダ様にとって、思い出の品なんだよ。大切な方から贈られた、という話だ」

「…………」

「幼少期はそれはもう無邪気に、毎日着ていたらしい。ボロボロになっても、名うての修繕師に依頼をして直してもらっていたほどに、ね?」

「なるほど……」



 その話は、とても胸に響くものだった。

 ボクは改めて、袋に仕舞っていたドレスを持ち出して確認する。そんなこちらに、リンドさんは真剣な声色でこう言うのだ。



「どうか、キミの力を貸してはくれないだろうか」――と。



 これはアーシャだけでなく、自分からの願いでもある。

 そんな気持ちが、言葉にこもっている気がした。



「リンドさん……」



 そこまで言われたら、断るなんてできない。

 まだまだ未熟なボクだけど、出来る限りのことをしたかった。だから――。




「やらせてください。こちらからも、お願いします……!」




 力強く、そう答える。

 その瞬間に、ボクの胸には熱い火が灯ったように思えるのだった。



 


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