3.アーシャの持ってきたドレス。
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「えっと、今回のお客様はこの子なんですね?」
「平民のくせに、わたくしを『この子』呼ばわりとは。――リンド、今すぐこの者の首を刎ねてください」
「ははは、落ち着いて下さい。アーシャ様」
「………………」
リンドさんが連れてきた女の子――アーシャは、ボクの言葉が気に障ったらしい。隣にいるリンドさんにそう指示を出した。だが彼は笑ってそれを受け流し、本題に入る。というのも、今回の依頼者というのがこのアーシャなのだ。
高そうな服に袖を通した彼女は、不愉快そうに鼻を鳴らす。
だが、それでも手に持った袋から何かを取り出した。
「……リンドの紹介でなければ、このような場所にはきませんからね」
文句を口にして、アーシャがテーブルに置いたのは一着のドレス。
ボクはその品を確認するために、十二分に注意を払って手に取った。赤い生地を基調とした、愛らしい印象を受ける子供向けらしいそれだ。
しかしながら、ずいぶんと生地が傷んでいる。
さらには細やかな意匠が、原形を忘れてしまっていた。
「これは……?」
「見て分かりませんか。ドレスです」
「あぁ、いや。そういう意味ではなくて、ですね?」
どういった品なのか、と訊ねたつもりなのだけれど。
アーシャはこれ以上語ることはない、といった感じにそっぽを向いてしまった。困ったボクに助け舟を出してくれたのは、リンドさん。
彼はあくまでにこやかに、こう話すのだった。
「これは、アーシャ様のお母様が子供の頃に着ていたものだよ」
「アーシャのお母さん、ですか?」
「うん、そうだね」
ボクが訊き返すと、彼はしっかりと頷く。
それを聞いて、考えた。つまるところ、十数年以上前の品、ということになる。生地がひどく傷んでいるのは、その年月を表しているのだろう。
意匠は、その頃にいた凄腕の職人によるものだ。
崩れているものの、完成度の高さは窺い知ることができた。
「これを、どうして?」
「あぁ、それは――」
ボクは次の質問に移る。
それに応えようとしたのも、リンドさんだった。だが――。
「それ以上は、慎みなさい。リンド」
――ぴしゃり、と。
その言葉を遮ったのは、アーシャだった。
彼女は腕を組み、眉間に皺を寄せ、彼のことを睨んでいる。その反応には、さすがのリンドさんも苦笑いをせざるを得なかった模様。
彼は仕方ない、といった風にこう言った。
「それじゃあ、今日のところはここまでにしようか」
そして、アーシャと共に席を立つ。
さっさと店を出ようとする彼女を見つつ、その隙をついて彼はボクに耳打ちした。
「明日また、説明にくるよ」――と。
リンドさんはそう言うと、アーシャの後を追いかける。
ボクは残されたドレスを見て、立ち尽くすのだった。
◆
「本当に、余計なことは言わないでください」
「申し訳ございません」
「それ、ちっとも本気で謝罪していないでしょう……?」
『リペア・ザ・メモリーズ』を出て、リンドとアーシャはそう言葉を交わしていた。少女は大きくため息をついて、剣士のことを見上げている。
そして、諦めたようにこう言った。
「でも、最後のチャンス、ですからね」――と。
なにを指すかは、言うまでもない。
しかし、彼女の声色からは期待というものは感じられなかった。
そのことを察したリンドは、安心させるように微笑んでこう伝える。
「大丈夫ですよ、アーシャ様。彼はきっと、やってくれます」
「どこから、そんな確信が湧いてくるのですかね」
「私の勘です、と言ったら?」
「激怒します」
剣士の飄々とした調子に、どこか気が紛れたらしい。
アーシャはまた一つ息をつくと、こう言った。
「……それでは、お母様に会いに行きましょう」――と。
少女はやや歩幅を大きく、急ぎ足に歩き出す。
リンドは、そんな彼女のほんの少し後ろを黙ってついて行くのだった。
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