8.決定的な瞬間。
限界を迎えていたのでしょうね(´・ω・`)
という、お話です。
「あなた! いい加減にして!!」
「うるさい!! お前に、なにが分かるんだ!!」
失意の中、アルフォンスは酒に溺れていた。
家の中に引きこもり、朝から晩まで酔い潰れるまで呑み続ける。たまに家の外へ出たかと思えば、誰と分からない女と浮気を繰り返していた。今まで張り詰めていた糸が切れたのだろうか、彼はとかく堕落を続けていく。
妻であるアイネとの仲は当然、日増しに悪くなっていった。
まだ物心ついたばかりのコルネもいたが、アルフォンスに息子を気遣う余裕などない。そのようなものがあれば、一人で抱え込むこともなかった。
このように、最悪な状況は回避できたのかもしれない。
今になって考えれば、なんと馬鹿なことをしたものか。
そう思うのは、人間の常だろう。
「ねぇ、悩みがあるなら相談して……?」
「……うるさい、黙っていろ」
「………………」
意固地になっていた。
アルフォンスは妻からの救いの手を振り払う。
互いの心が壊れていく。その音が、耳元で聞こえていた。硝子のようなそれはひび割れて、あと少し、なにかの後押しがあれば後戻りできなくなる。
アルフォンスも、アイネも、それを理解していた。
彼らにとって、最後の絆は息子のコルネ。
だが、そんな息子の無邪気な悪戯がすべてを終わらせるのだった。
◆
――ある日のことだ。
まだ幼いコルネは、部屋の中で一つの銀時計を見つけた。
刻々と、一定のリズムで時間を進める美しいそれに、少年の心は奪われる。好奇心が盛んな年頃ゆえだろう、彼はおもむろにそれを手にして遊び始めた。
「うわぁ……!」
瞳を輝かせて。
悪意など、あるはずがなかった。
だが、だからこそ悲劇は起きたのかもしれない。
「あっ!?」
どこをいじったのかは、分からない。
それでも、その銀時計は音を立てて壊れてしまったのだ。
針は動きを止めて、動かなくなる。そして、
「……コルネ。お前、なにをしてるんだ?」
「パパ……?」
運が悪かった。
その決定的な瞬間を、アルフォンスが見てしまった。
「なにをしているんだ、お前はァ!!」
「ひぅ!!」
アルフォンスの手が上がる。
そして、彼は力任せに息子の頬を叩いたのだった。
乾いた音が響く。何事かと、アイネもすぐに駆け付けた。
「う、うわあああああああああああああああああああああああ!!」
部屋の中に響き渡ったのは、泣きじゃくるコルネの声。
アイネは、アルフォンスが息子に何をしたのかすぐに理解した。
これが、家族が壊れた決定的な瞬間。
その場にいる全員の心が、バラバラになったのだった……。
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