2.リンドの評価。
「いらっしゃいませ! リペア・ザ・メモリーズ……あ、リンドさん!」
「やあ、ずいぶんと繁盛しているようだね」
「おかげさまで!」
オープンから数日。
お客様の出入りが多くなってきた頃合いに、リンドさんがやってきた。
彼はボクを見て笑うと、店内にいる人を数えるようにしてから大きく頷く。
「言っただろう? 忙しくなるってね」
「本当にびっくりしました。リンドさん、凄いですね」
ボクはリンドさんの言葉に、道具の整理をしながら答えた。
すると彼はまた笑って、こう口にする。
「あぁ、私が大々的に宣伝したからね」――と。
え……?
「……えっと、どういうことです?」
ボクが目を丸くすると、相手は嬉々としてこう言った。
「これでも私は、SSSランクパーティーのリーダーをしていてね。多くの冒険者が知り合いなのだが、そのほとんどに『素晴らしい修繕師がいる』と伝えたのだよ」
「え、ちょ……!? 待ってください!? そんな――」
ボクはリンドさんの評価に、丸くした目を回す。
最近になって店を開いた修繕師なのに、どうしてそこまで絶賛されているのか、その理由がまるで分からなかった。
自己評価と彼の評価の差に、思わず眩暈を覚えながらボクはどうにか踏みとどまる。そして、一つ深呼吸をしてからこう伝えるのだった。
「あ、あの。応援して下さるのは嬉しいのですけど、その……」
過大評価は、いずれ自分の首を絞めることになる。
そう思っていたのだけど……。
「よお、修繕師さん! 今日も頼まれてくれるかい?」
「え、あ! はい!」
そのタイミングで、数日前に指輪を直したお客様が声をかけてきた。
どうやら今回もなにか、修繕してほしい物があるらしい。
「えっと、リンドさん。またあとで! 少し待っててください!」
「あぁ、良いとも」
ボクは慌ててそう言ってから、お客様のもとへと向かうのだった。
◆
「この数日でリピーターがいるなんて、凄いことじゃないか」
接客をするライルを見て、リンドはそう満足げに呟いた。
そして一度、店の外に出てから――。
「これなら、彼女も安心して任せてくれるだろうね」
とある少女のことを考えて、微笑んだ。
そして、その女の子の待つ近くの広場へと足を運ぶのである。
「わたくしを、いつまで待たせるのですか? ――リンド」
「申し訳ございません、アーシャ様」
リンドを先に認めたその人物は、綺麗な青の髪をしていた。
やや攻撃的な印象を受ける金の瞳をした彼女は、整った顔に不満の色を浮かべる。そして、小さな胸を張りながらこう言うのだった。
「本当に、信じていいのですよね?」――と。
少女――アーシャの言葉に、剣士は笑う。
ゆっくりと頷いて、彼はこう告げるのだった。
「ご安心を。今から紹介するのは――」
店から、先ほどの客が出るのを遠巻きに確認しながら。
「おそらく、稀代の天才修繕師ですよ」――と。