1.依頼。
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「……うーん。冒険者を続けようにも、どこも入れてくれないよなぁ」
翌日の昼、ボクは王都の街を歩きながらそう口にした。
勢い余ってパーティーを離脱したのは、もしかしたら勇み足だったかもしれない。ダインの言い方には腹が立ったけど、間違いではなかったからだ。
将来有望だとされる彼のパーティーで、ボクはたしかに役立たず。
そして、そんなところを追放されたボクを入れてくれるパーティーが、この王都の中にあるとは思えなかった。
「あと少し。あと少しだけ、お金があれば……」
ボクは冒険者カードに刻まれた預金残高を見て、そう漏らす。
夢を叶えるには、もう少しだけ金額が足りなかった。その事実を目の当たりにして、ボクは昨日の自分を呪う。
もう少し我慢していれば、念願である自分の店を開けたはずなのに。
一時の感情で、それをフイにしてしまった。
「はぁ……。どうしよう、これから」
王都の中心である広場に到着。
そして、そこに設置された長椅子に腰かけた。
無意識のうちに考えたことを口にする。完全な独り言だった。
そのはず、だったのだけれど……。
「それなら、私の依頼を受けてくれないかい?」
「え……?」
うつむき加減の頭を持ち上げると、視線の先には一人の剣士が立っていた。
長い赤髪に、金の眼差し。美しい顔立ちをしたその男性は、口元に笑みを浮かべた。そして一本の剣を差し出しながら、こう言うのだ。
「言い値で構わない。この剣を直してもらいたい」――と。
思わず首を傾げる。
だけどこの時のボクに、答えは一つしかなかった。
◆
「えっと、リンドさんの思い出の剣なんですね?」
「あぁ、そうだ。恩師から譲り受けたものでな」
「そんな大切な剣をボクなんかに……」
自宅に戻って、アトリエへ移動。
依頼者のリンドさんにも同行してもらい、詳しく話を聞いた。
彼曰く、やや古びたこの剣は師匠である方からいただいたものらしい。家紋が刻まれているところからして、きっと由緒正しいものに違いなかった。
どうして、ボクが『修繕師』を目指しているのを知っているのか。
そして半人前のボクに、なぜ依頼をしてきたのか。
それらの理由は分からなかったけれど、請け負ったからには真剣にやろう。
ボクはそう思って、鞘から剣を引き抜いた。
「うーん、かなり刃こぼれしてますね……」
すると出てきたのは、かなり使い込まれたであろう刀身。
ところどころにヒビが入っていて、剣としての機能はすでに失われているように思われた。ボクの反応を見て、リンドさんも神妙な面持ちで言う。
「どこの修繕師に持ちこんでも、首を横に振られてね」
「………………」
なるほど、と思わされた。
これはたしかに、一か八か、縋りたくなるのも分かる。
ボクは剣を鞘に仕舞ってから、こう訊ねた。
「もしかしたら、元通りにはならないかもしれません。それでも任せていただけるなら、ボクにできる最善を尽くします。いかがでしょう?」――と。
自分の夢を叶えるため。
それもあったが、この剣に対するリンドさんの思いを汲みたかった。
そう考えてボクが言うと、彼は――。
「あぁ、よかった。ぜひ、よろしく頼むよ」
そう言って、微笑むのだった。
「……分かり、ました!」
そうとなれば、ボクのやることも決まる。
自分にできる最高の仕事を。
ボクはそう考えて、一つ大きく息をつくのだった。