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1.依頼。

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「……うーん。冒険者を続けようにも、どこも入れてくれないよなぁ」



 翌日の昼、ボクは王都の街を歩きながらそう口にした。

 勢い余ってパーティーを離脱したのは、もしかしたら勇み足だったかもしれない。ダインの言い方には腹が立ったけど、間違いではなかったからだ。

 将来有望だとされる彼のパーティーで、ボクはたしかに役立たず。

 そして、そんなところを追放されたボクを入れてくれるパーティーが、この王都の中にあるとは思えなかった。



「あと少し。あと少しだけ、お金があれば……」



 ボクは冒険者カードに刻まれた預金残高を見て、そう漏らす。

 夢を叶えるには、もう少しだけ金額が足りなかった。その事実を目の当たりにして、ボクは昨日の自分を呪う。

 もう少し我慢していれば、念願である自分の店を開けたはずなのに。


 一時の感情で、それをフイにしてしまった。



「はぁ……。どうしよう、これから」



 王都の中心である広場に到着。

 そして、そこに設置された長椅子に腰かけた。

 無意識のうちに考えたことを口にする。完全な独り言だった。


 そのはず、だったのだけれど……。



「それなら、私の依頼を受けてくれないかい?」

「え……?」



 うつむき加減の頭を持ち上げると、視線の先には一人の剣士が立っていた。

 長い赤髪に、金の眼差し。美しい顔立ちをしたその男性は、口元に笑みを浮かべた。そして一本の剣を差し出しながら、こう言うのだ。



「言い値で構わない。この剣を直してもらいたい」――と。



 思わず首を傾げる。

 だけどこの時のボクに、答えは一つしかなかった。







「えっと、リンドさんの思い出の剣なんですね?」

「あぁ、そうだ。恩師から譲り受けたものでな」

「そんな大切な剣をボクなんかに……」



 自宅に戻って、アトリエへ移動。

 依頼者のリンドさんにも同行してもらい、詳しく話を聞いた。

 彼曰く、やや古びたこの剣は師匠である方からいただいたものらしい。家紋が刻まれているところからして、きっと由緒正しいものに違いなかった。


 どうして、ボクが『修繕師』を目指しているのを知っているのか。

 そして半人前のボクに、なぜ依頼をしてきたのか。


 それらの理由は分からなかったけれど、請け負ったからには真剣にやろう。

 ボクはそう思って、鞘から剣を引き抜いた。



「うーん、かなり刃こぼれしてますね……」



 すると出てきたのは、かなり使い込まれたであろう刀身。

 ところどころにヒビが入っていて、剣としての機能はすでに失われているように思われた。ボクの反応を見て、リンドさんも神妙な面持ちで言う。



「どこの修繕師に持ちこんでも、首を横に振られてね」

「………………」



 なるほど、と思わされた。

 これはたしかに、一か八か、縋りたくなるのも分かる。

 ボクは剣を鞘に仕舞ってから、こう訊ねた。



「もしかしたら、元通りにはならないかもしれません。それでも任せていただけるなら、ボクにできる最善を尽くします。いかがでしょう?」――と。



 自分の夢を叶えるため。

 それもあったが、この剣に対するリンドさんの思いを汲みたかった。

 そう考えてボクが言うと、彼は――。



「あぁ、よかった。ぜひ、よろしく頼むよ」



 そう言って、微笑むのだった。



「……分かり、ました!」



 そうとなれば、ボクのやることも決まる。

 自分にできる最高の仕事を。


 ボクはそう考えて、一つ大きく息をつくのだった。



 


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