2.ちょっとした捜査の開始。
次回から物語、動きます。
応援よろしくお願いいたします!
「どこかで、見たことがあるのですよね。その髪飾り……」
「ずっと考えてるね、アーシャ」
「えぇ、なにかが引っかかってしまうのです」
店仕舞いをしてから、ボクが諸々の作業をしている最中。
アーシャは先ほどの少年が持ってきた髪飾りを見て、延々と首を傾げていた。というか、もう夕暮れ時だというのに、彼女は帰らなくても良いのだろうか。
だがそんな心配をよそに、公爵家令嬢は大きくため息をついた。
「……それにしても。あの男の子が持つには、いささか変な感じですね」
「うーん、たしかにそうだね」
そして、そうボクに同意を求めてくる。
二人きりということもあって、こちらもそれに同意した。
違和感はかなりある。偏見が入って申し訳ないけど、あの少年はおそらく『貧困層』に住んでいるはずだった。
だが、彼が持ち込んだ髪飾りは――。
「この細かい作り込み。それに、素材もかなり高価なものだよ」
そうなのだ。
この髪飾りはどう安く見積もっても、あの子が手にできる品ではない。
だとするならば、色々な可能性が浮上してくる。
「もしかして、盗品……とか?」
「うーん……」
アーシャは、ほんの少し遠慮がちにそう言った。
たしかに彼女の言う通り。その線が、最も濃厚かもしれなかった。
これは実際問題として、貧困層の人々は生き残るために、犯罪に手を染めることが多い。中には組織的に犯行を繰り返す者たちもいるのだ。
だとしたら、あの少年はその末端という可能性もあった。
でも――。
「違うんじゃ、ないかな……」
ボクには、不思議とそうは思えなかった。
ハッキリとした理由はない。ただ、漠然と――。
「あの子の目、とても真剣だったんだ」
そう、感じたから。
あの少年はボクと目を合わせた時、とても真っすぐな目をしていた。
邪な気持ちなんてない。そこにあったのは、この髪飾りを直したいという、真心のようなものだっただろう。
ボクが言うと、アーシャは小さく息をついてから言った。
「本当に、お人好しですね」
「あははは。昔から、けっこう言われるよ」
「笑っている場合ですか? まったく……」
笑って答えると、彼女は小さく笑みを浮かべる。
そして、こう提案してきた。
「それでは、わたくしも協力しましょう。その髪飾りの出どころ、出来る範囲で調べてみせます」
「え、いいの?」
それは、願ってもない申し出。
ボクが驚いてアーシャを見ると、そこには優しい笑みがあった。
「これも、乗り掛かった舟ですから」
呆れたような。
しかし、どこか納得したような表情。
それを見て、こちらも自然と笑みを浮かべて答える。
「ありがとう! ――よし。そうと決まれば、行動あるのみだ!」
ボクとアーシャは、互いの顔を見て頷き合うのだった。




