1.とある少年からの依頼。
ここから、第2章。
このお話というか章を通して、短めかもしれません。
アーシャの依頼を終えてから、ボクの店には貴族のお客様が多く訪れるようになった。あの子の生まれについては、ある程度予測していたのだけど、まさか――。
「公爵家令嬢だったなんて、聞いてないよ……」
「話していませんもの」
「……そう、だね」
ボクが思わずそう漏らすと、店内の椅子に腰かけたアーシャが答える。
優雅に紅茶を口にしている少女は、こちらを見て悪戯っぽく微笑むのだった。それにボクは苦笑いしかできなかったのだけど、良しとしよう。
あの一件以来、彼女はとても仲の良い友人となっていた。
ボクの店の宣伝をしてくれているし、頭が上がらない、というのもあるけど。
とにかく、店の経営が軌道に乗り始めたのは良いことに違いなかった。
そう考えていた時である。
「あ、あの……!」
周囲の貴族の人々とは、明らかに服装の異なる男の子がやってきた。
あちこちに継ぎ接ぎがあるそれに袖を通した少年は、ボサボサの髪の隙間から見える黒の瞳を揺らしている。
「ん、はい。どうしたのかな?」
ボクは作業台を離れ、その子のもとへ。
そして視線の高さを合わせるためにしゃがむと、その子はこう言った。勇気を振り絞るようにして――。
「これを直してください……!」
彼の手には、一つの髪飾り。
どこか気品の感じられるそれに、ボクと傍にきていたアーシャは顔を見合わせる。こうして、また一つの物語が始まるのだ。
これは、とある少年の物語。
小さく儚い恋心を巡る、そんなお話だ。
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