1.懐かしい日々。
(*'▽')新章開幕!
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――ずいぶんと、懐かしい『夢』を見ていた気がする。
あの頃の自分は修繕師という仕事に一生懸命で、それが誰かの助けになると信じて疑わなかった。だから精一杯の努力をしたし、相手の気持ちに寄り添うようにしたのだ。
いいや、あるいは違うのかもしれない。
ボクはどうして、そこまでして修繕師の仕事に拘ったのか。
すべての理由はきっと、祖父と父の確執にあった。彼らの仲を取り持ちたいと願い、どうにかして元通りにしたいと祈って、しかしそれはもう永遠に叶わない。
祖父は他界し、父と自分は疎遠になった。
だけどきっとボクは、物分かりの悪い子供に他ならなかったのだろう。意固地になって、その『理想』にしがみ付いて、誰かの力になっていれば機会が巡ってくるのではないか、と。そしていつの日か、父も祖父の仕事のことを見直してくれるのではないか、と。
違う、そうじゃない。
ボクはただ、泣き出したいほどに寂しかったんだ。
大好きな人たちが口論し、互いを傷つけ合う光景が耐えがたかった。そんな子供じみた理解のない『想い』の押しつけをしようとしたから、あの日の自分は失敗したのだろう。相手の気持ちを考えない行為は、修繕師としての在り方に対して根本から反するものだ。
だからボクはあの日、ついに父と袂を別った。
青色の花冠が砕け散ったその時に、ボクの『希望』も失われた。
「あぁ、本当に……遠い……」
工房の中、乱雑に物の置かれた寝床で目蓋を持ち上げる。
本当にずいぶんと懐かしい日々を思い返したものだ。たしかに印象深い毎日ではあったし、いまの生活の基盤を作り出すに至った仕事や、人との繋がりを育んだ出来事ばかりだけど……。
「えっと、もう朝……か」
いまの自分には、少しばかり眩しいものだった。
ボクはゆっくりと身を起こして、大きく伸びをして関節をほぐす。ここ最近はもう働き詰めで、まともな休暇など取っていなかった。いつまでも昔のような体力、集中力が続くわけではない。いい加減に、自分もそれに向き合うべきなのかもしれなかった。
だけど、自分から修繕の時間を取ったら何が残るのだろう。
そこまで考えてから、首を左右に振った。
恐ろしい想像だったから。
それこそ、まるで自分が空っぽになるような感じがした。
「……よい、しょっと」
だから、その思考から逃げるように。
ボクは窓際へ移動し、カーテンを思い切り開く。すると目眩がするような日差しが降り注いで、思わず顔を手で覆い隠した。でも次第に、その明るさにも目が慣れてくる。
慎重に、ゆっくりと外に視線を向けるとそこにあったのは一面の銀世界だった。
「ずいぶんと積もったなぁ……」
冬季が訪れたエルタ王国。
先日から降り続けた雪は見事に重なり、世界を白に染め上げていた。窓を少し開けると、そこからは肌を刺すような外気が飛び込んでくる。
思わず身を震わせるが、同時に思考も澄み渡っていくように感じた。
「………………」
そして、先ほど見た『思い出』の日々が脳裏をよぎる。
ボクは白い息を吐きながら、こう口にした。
「あれからもう、五年……か」――と。
懐かしみながらも、どこか空虚を抱きながら……。
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異世界転生の仕様が変わったらしいので。
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