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「お姉ちゃん、もうみんな行っちゃったよ?」
「じゃあ、そろそろ行こっか。待っててくれてありがとね」
付いていこうとしたらアリアから手を繋がれて歩いた。
「ううん、いいよ。アリア、お姉ちゃん好きだもの」
可愛い妹の尊さに尊死するとこだったけど胸元を押さえて事なきを得る。……違うよ? 決して趣味で触ってるんじゃないんだからね! ……ホントだよ? 信じて? と、自分内がやたらかしましい僕っ娘アリス。
二人で繋ぐ手はとても柔らかくて、暖かくて、ちょっと気恥ずかしくて……初めての感覚が、男子をぶっ飛び越えた瞬間から半端なく多すぎて正直困る。
談話室を突き抜けると廊下に出て学年毎に左右どちらに進むべきか割り振られているらしい。今年の一年生は左側を使う。
「ここが、僕の部屋? アリアとは別なのね?」
「お姉ちゃんまた後でね♪」
妹と別れ、自室のドアの名札を確認する。僕の同室はローズという子らしい。
ドアをあけるとそこにあったのは、自宅の部屋よりも余程上等で調えられた庶民からみると行き過ぎた待遇のお部屋様だった。モノトーンに統一された趣味のいい建具、上品なカーテンに、間接照明。ベッドが二つにクローゼットとソファーとデスクがひとつづつ。
デスクの上に管理用ファイルが置かれており、便箋で挨拶が記されていた。
新入生の皆様へ
この女子棟は通称マリナリア寮と申します。創立時の王妃さまのお名前をいただいております。創立当時、この寮と共に、身分の貴賤によらず皆平等に良く学ばれます様にとマリナリア様のお気持ちが至るところに刻まれております。
中央管理室の専用コンシェルジュがこちらの管轄で御座います。お名前とご用向きをお伝え頂きますとそれにそってお答え、ご案内致します。備え付けの備品、消耗品の不足などお気軽に、ご用命ください。
快適な学生生活をお過ごしください。
中央管理室ミケーネ・ヌコリッシュ
「ふむふむ……可愛い猫のマーク、モフりたくなる名前だね」
ちょっとしたホテルのツインルームを出るとアリアの部屋のドアをノックする。
「あ、お姉ちゃん、見てみてこのお部屋ピンク色なの! 可愛いでしょ!」
ちょっと興奮気味にぴょんぴょん跳ねる姿も可愛い僕の妹マジ天使……。
「今世どうして僕は男の子に生まれなかったんだ! そりゃ陰キャだったけど、前世は、ちゃんと生えてる男の娘だったのに……うぅ、女神様の意地悪……、」
「うん? お姉ちゃんさっきからぶつぶつ言ってるけど、どうかしちゃたの?」
「どうかしたいのは山々なんだけどね……じゃなかった、この後、何するんだっけって思って?」
「もう、お姉ちゃんたら、トリシア先生がお風呂も紹介してくれるって言ってたのに、聞いてなかったんだね?談話室にいくよ?」
「ごくり……とうとうこの時が……一回は実際に死んだみたいだけど、更にもう一回死んだ気になって、一気に夢の楽園に迎えられるのは罪にならないのかも……? まあ、ぶっちゃけ元が恋を夢見るキモ男だってバレたら抹殺される自信はあるけど何か? そんな中、自分は男子代表、選ばれし勇者として無事生還出来るのか否か……。ある意味究極の選択を迫られている気分でごにょごにょ……」
壁に向かって何かをごにょごにょ呟くアリス。鬼気迫る様子にアリアは後ずさってしまう。
「ひえーっ、お姉ちゃんが怖いよ……」