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机に向かって女神の主食、多種多様の駄菓子を鋭意制作中。
段ボール二箱を渡すと数日中には食べ尽くしてしまう。でもそれだけで生きていると思えば半端な量では足りなのも頷けた。
朝早くから、せっつかれての駄菓子作り中で、みずきの事が頭をよぎった。
「あ、そう言えば……みずきのご飯って何をあげたらいい? そもそもウサギって何食べるの?」
みずきは一旦、中央管理室で預かって貰っている。在籍期間中の生徒では前例の無い状況に学園側の対応も追い付いていない様だった。
「ちょっと、そんな事よりこのお素敵女神の駄菓子のが大事じゃなくて? 向こうは専門スタッフが面倒見てくれてるんだし」
女神はベッドで下世話な週刊誌をペラペラ捲りながら文句だけを呟いていた。
部屋の隅には空の段ボールも放置されている。
「アタシもうお腹ペコペコなのよ~~」
「はいはい、今やってるから!」
テイムしてから約半日……。
不本意だけれど名前も付いた。飼う事になったからには面倒を見るのが必然で。
アリスは慣れない異世界で、駄女神を養いながらペットの餌問題にも直面していた。
瑞希の時には、お土産が巨大化したマリモ位しか家にいなかった。他にペットらしいペットを飼った事が無かった。
自分の生命線を握るアリスが難しい顔をしているからか、女神が面倒くさそうに口を開いた。
「要はウサギなんでしょ? ……ジャガイモの芽とかネギでも与えておけばいいんじゃないの?」
…………
分かったのは、駄女神が一番に言うモノなんて危なくて絶対あげたらダメって事くらい。
「はぁ……ペットの食べ物~」
元々たいした期待はしていなかったが、やはり女神の一言は何のアドバイスにもならなかった。
「ちょっと酷いわよ? 他ならぬこの女神様からのアドバイスをスルーするなんて……美少女、あんたアタシを何だと思ってるの?」
目の前の引きこもりを上から下まで冷静に、判断してみた。
「……引きこもりの糞ニート様?」
「ねぇ、ちょっとその目線冷たすぎない? せっかくこんな美少女に産んであげたのに!」
「生んで貰った覚えも無ければ、おむつを替えてもらった記憶が欠片も無いですけど?」
子育てする女神が全く想像出来ない。
「そりゃアタシがそんな面倒くさい事する訳ないけど……」
ゴニョゴニョ小声で何かを言っているがアリスには届く事は無かった。
「誰かの言うジャガイモの芽とネギを全力で避けるとして、他に何か、……まさか餌無しでいいとかはないよね?」
「そもそもアタシのご飯を急いでくれないかしら?」
「……」
アリスは作り立てのまっぴーラムネを放り投げる。とそれに女神は一目散に飛びついた。
「もーー! その塩対応、美少女が酷いって先生に言いつちゃうんだからね?」
「ルークスに何をいいつけるって言うんだよ」
そう言えばルークスもアリスの見方だった。
「あれがダメならもっと上よ!」
負けじとこれでどうだ! と人差し指を立てて宣言する。女神と言う役職の割には本当に子供っぽい。
「はぁ……呆れた。それって僕がここを追い出されるやつでしょ?」
「ああん、それは困るわ! この部屋からアタシの駄菓子が無くなっちゃうじゃないの!」
「じゃあ最初から言いつけるとか言わなきゃいいんじゃ?」
「それもそっかー」
「まあ、僕がいなくなったら、それこそジャガイモの芽でも育てて食べればいいよ」
「いやよ! デリケートなアタシが駄菓子以外を食べてお腹でも壊したらどうするの!」
「できた。じゃあ僕いくね! ゆっくりしてたら朝ご飯食べ損ねちゃうから」
アリスは上着を羽織ると部屋を後にした。
「いってらっしゃーい」