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「さあ、いつまでも待たせてないでもう行きなさい! そんな様子だと寮暮らしなんてとても考えられないわ!」
モグモグ咀嚼しながらカバンを持つと立ち上がる。
「ほむほむ……行ってきます?」
ドアをくぐると見た事のない世界が広がっていた。
カラフルな街並み、中世のフランスみたいな異世界転生にありがちな風情が瑞希改めアリスをわくわくさせる。
「もう! お姉ちゃん次あんな事やったらずっーと置いていくんだからね?」
ほっぺたを膨らませて不機嫌を可愛いで表現している妹アリアが走り出すのでそれにつられてアリスも走り出した。
「アリア、ごめんって! 待ってー!」
王都の東側、王城から続く馬車道の脇を走り抜けると門番さんに一礼。
ハイソな門を駆け抜ける。
王立魔法学園アディラジュノール。貴族、平民の区別無く、ある一定以上の魔力を持つ者が全て集められる。
十才以降、魔力の発現すぐから子供達が順次集められ、全寮制の学舎でより良い魔法師を育成すべく教養を与え国をあげて育んで行く。魔力はかけがえのない貴重な国の財産である為に、貴族の矜持等の下らない理由で損なわれるべきではないと、国王とその義弟である名誉学長のされた発言がそのまま鉄の掟となっている。
後方のドアから教室に駆け込むと一番後ろの空いた席に座る。息も絶え絶えなので深呼吸をしていたら前方のドアが開き先生が入室する。
「ギリギリセーフ……」
インテリ眼鏡のクールなイケメンが振り向き生徒を見やると話し出す。
「本日は入寮の説明会と自室の内見を行う。既に入寮している者はこの限りではなく図書室で自習とする」
実際の言葉より大きく聞こえる。何処かに音響装置でもあるのだろうかとキョロキョロしていたら、後ろから何かが覆い被さってきた。
「子猫ちゃん、もしかして俺の事、探してくれてたの?でも駄目だよ、今はお利口さんだから前を向いて? ね」
耳元に至近距離で囁かれるイケボに身体中に電気が走ったみたいで何かが揺り動かされる感覚に震えて動くことが出来ない。
「あ……やぁ……」
「こら……そこ! 女生徒で遊ぶんじゃない!」
「ちぇっ……やかましい奴に見つかっちゃったね。じゃあね、子猫ちゃん……」
手の甲にキスして覆い被さった人物が立ち上がる。モノクルが似合う長身のイケおじが後ろのドアから退室して行った。
「お姉ちゃんマグノリア学園長の知り合いなの?」
「……はぅ! 違う……僕知らないの、初めて会った人……!」
まだドキドキしている、インテリ眼鏡のクールなイケメン教師が苦々しくその様子を見つめているのをアリスは知らない。