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「いまから君達に卵を配る。それに自分の魔力をこめて孵かえす。それで本日は修了だ」
担任教師が午後の授業のために卵を一人一個配った。渡されたのは自分の顔より少し小さめの卵。この学校の校章に羽根が添えられている。
「先生、中には何がはいっているのですか?」
「永ながく君達の相棒となるであろう最適なアイテムが産み出される。所謂いわゆる装備品だな」
室内はざわめく。
「産み出される形はそれぞれだが、普通に杖になる事が多いだろう。中には王笏おうしゃくになった例もあるが、それは類たぐい稀まれな例でもある。形や性能は持ち主の魔力と共に成長していくので気に入らぬからと投げ出さずしっかりと育てると良い。この授業は出来たものから解散となる」
「え! これが杖に? ……凄っ?」
異世界っぽいアイテムのゲットチャンスにアリスは興奮し、その他の者達もにわかに色めき立つ。
「コツは体内から自分の魔力を探りその卵と共に体内を循環させる事だ。必要な魔力は卵自体が掬すくい取って一定ラインを越えたら卵が割れ、その者に相応しい装備品となって具現化するだろう。精々頑張りたまえ……始め!」
室内は静まり返り、皆自分の手の中の卵だけに集中している。
「自分の中に魔力があるの?」
全く魔力を必要としなかった世界から女神によって突如送り込まれたこのファンタジーな世界で初めて現れた非現実的な場面……
「アリア……?」
横に座る妹を覗き見ると、真剣に卵と向き合っている。
「僕も頑張らなきゃ! 意識を集中して魔力について考える。体内を循環させる? 回すってこと? 僕フラフープならいつまでだって回せるんだよね……これ位」
真剣に卵と向き合っているといつしか周りの雑音は耳に届かなくなっていくものだ。今、アリスの脳内では前世の自分が楽しそうに魔力の輪っかを腰のひねりを使ってひたすらぐるぐるスイングさせていた。とても楽しそうだ。
「あははは……」
一人また、一人と卵から自らの装備品を取り出し部屋を退室していく。
「残されたのは……アリス嬢だけ、と」
担任教師はアリスの前の席に腰掛けその様子を観察する。
「ふむ……」
卵を孵かえすだけにしては時間がかかりすぎている。明らかにかかる時間がおかしい事になってきた。校舎のフロアには人もまばらになりつつある。
見れば魔力が溢れんばかりで、今にも割れそうになっていた。
息を飲む。
ピシッ……
「割れた!」
卵が勢い良く割れ、中から現れたのは。
「あ!」
アリスが手にしたのは、あくまでも何気なくで、決して趣味ではなくだが録り溜めては見ていた子供向けアニメで健気なヒロインが戦闘から魔法薬の精製まで多岐にわたって使用していた乙女チックなマジカルステッキに瓜二つ。あのアニメ確か、、、
「「魔法少女プリズムーン!」」
信じられない事に声が誰かとシンクロした? 咄嗟とっさに目線を上げると……アリスと担任教師ルークスは目が合いその場で固まっていた。
「え! なんで?」
目の前の男性を確認して、まじまじその端正な容姿を観察していたら、目の前の男性の指がマジカルステッキに触れそうになり……
「あ!」
咄嗟とっさにルークスが手を引き席を立つ。
「かっ片付けたら部屋に戻る様に! 失礼……」
気のせいかルークスの顔色はとても悪かった。
「今のは何だったんだろう?」
アリスは夕暮れの教室で一人呟く。