1.18 Another story (2027.4.12)
紺色のブレザーを着た、黒色の長い髪と紫水晶の目を持った美少女が、路地裏で立っていた。
そこは、都市国家エデンの発展の裏側だ。
支配されていた者たち。その成れの果てが、ここには集まってくる。
競争に負けたもの、夢を打ち崩されたもの、不法入国者。
本来の、あるべき姿である『人間』が、負けた際に落とされた失楽園の先にある僻地。
あまりにもこの場に似合わない風貌をしたその少女は、言わば黒翼の天使のような、美しさを秘めている。
――事実、彼女の体質は、その表現に見合うだけの能力を兼ね備えていた。
突如、一陣の風が吹く。
すると、痩身の男が彼女の前に現れた。
彼は闇だ。
年齢は不明。おおよそ二十四、五くらいだろうが、その気配が、顔と比較しても年齢が判らないという不可解な現象のように思わせる。
その実、彼は幼き童子になることも、老年の賢者とも見て取れる。
漆黒の闇に飲まれしダークスーツ、黒曜石の刃のように鋭い黒を持つ髪。さらに着ている物や顔を見せないように、闇の帳を纏う。眼の辺りには、眼帯のように黒色金属製バイザーが、闇の中の明星が如く煌めいている。
少女は、その姿を見て、恐怖を心に、顔には歓喜の笑みを落とした。
「……来てくれたのね」
「ふん。何の用だ?」
男は低い声を出し、美少女を威圧する。しかし美少女の方は彼の言動には全く動じず、単刀直入に事を済ませた。
「私の夢を叶える力をくれる。そう言ったのはあなたでしょう」
少女のその言葉に、男は猛禽類のような笑みを闇の隙間から浮かべた。
「ふん……三回目でようやくか。ならば授けよう。その力を」
男を包んでいた漆黒の闇が、美少女をも包み込んだ。
少女は理解ができず、しかしうろたえたいという気持ちを抑えてその闇に飲まれた。
「顕現せよ『アスタロト』!」
男の声が、路地裏に響いた。