1.17 Miyuki Hasukawa(2027.4.12)
国立天霊高校は、地下鉄八事駅を下りてすぐ、徒歩二分の所にある高校だ。
国立ということもあり設備は充実、自然環境も完全装備、そのくせ交通の便は完全。生徒にとっても教師にとっても人気の高い学校となっている。そんな天霊高校の名物の一つ、桜の楼閣の下を、美雪は早足で駆け抜ける。夏樹の容態を確認するために、病院へ向かうからだ。
「美雪、そんなに急いでどうしたんだい?」
桜の楼閣を支える一番大きい樹齢600年の桜の木の上から声がした。美雪は振り向かず、早足で話を始める。
「友達が事故をしてしまったんです。だから、容態の確認の為、病院へ行くのです。覇月お兄様わかりした?」
覇月と呼ばれたその声の持ち主が桜の大木から降り立った。金糸のような髪、薄い琥珀の瞳、美雪に良く似た美しい顔立ちを持つ美青年がそこにはいた。
彼の名前は蓮川覇月。美雪の双子の兄であり、一年四組の隣の一年三組の生徒だ。
「へえ……事故したのは神鳴夏樹という男子生徒だったと思うけど……美雪に男友達がいたなんてね。意外だよ」
覇月は足並みを揃え、一緒に歩き出す。
「私にだって男友達はいますよ? 彼が始めてですけど」
覇月はそれを聞くと、隣で嬉しそうに笑った。
「……どうしてそこで笑うのですか?」
美雪はその笑みが少々不快だったので、問いただしてみた。
「癇に障ったならすまない。そのようなつもりは無かったのだが」
覇月が歩きながら頭を下げる。美雪が何かを言おうとした瞬間、先に覇月が話を戻した。
「それで、今日は遅くなるのかい?」
覇月の問いに、しばらく美雪は考え込んだ。どちらの意味かを理解しつつ、どちらでも同じ答えであることに合点した。そしてその答えを言い放つ。
「いいえ。早めに行くつもりです」
「そうか。僕は遅くなるかもしれないが、くれぐれも遅れないように」
「お兄様は?」
美雪にとって覇月の用事のほうが驚きだ。彼女は疑問を、そのままぶつけた。
「部活。少し見学にいこうと思っていて」
覇月はそれだけ言うと、美雪と違う方向に歩いていく。
分かれた先は、それぞれの目的へと続いていた。