1.15 Yuri Minakami(2027.4.12)
処刑するはずの青年が、一般人の青年を巻きこんだ。
百合は、落ち着きを見せながらも非常に混乱していた。
「……」
この事は、かなり危険なことだ。
百合は普通の人間ではない。とある事情により天型式双翼生物兵器――通称『天翼』という人知を超えた存在をこの身に宿している。さっきのカラスの青年もそうだ。
エデン防衛庁は国防以外に、現在エデンで唯一『天翼』の管理を合法的に行うことが可能な組織である。その主な役割は、『天翼』に関係することの情報の隠蔽と、レジスタンスグループなどが所持する異法の『天翼』の破壊、使用者の早期殺害と情報処理というものだ。つまり、この黒髪少年には悪いが、彼の記憶は封印しなければならない。
百合は小さく息を吸い込み、小さな唇を開いた。
「万物を司る我が主の、『力』が代行者が命じる。今、我が『力』を以って汝、記憶に楔を刻み込め」
百合の言葉が紡がれる度に、彼女の左手に光が点る。
百合は唱え終わると、しゃがみこみ、光っている左手を夏樹の額に当てた。
「……よし」
手を離すと、百合はもう一人の少年を氷漬けにした。
その行動と同時に、銅色のバイザーと白コートを着用した局員が数人降り立った。
彼らも百合と同じエデン防衛庁の局員だ。しかし、百合のような実戦部隊ではない。主にこれらの事件の情報処理を担当する智天隊だ。
彼らの登場。それで、住宅地は静寂に包まれた。