1.14 Natuki Kaminari(2027.4.12)
「ぜぇ……はぁ……」
夏樹は、居住区エリア5にあるマンションから自転車をこいで、居住区エリア4の地下鉄の池下駅に向かっていた。
桜並木から、桜の花びらが舞い落ちる。
「あー……、遠回りしよう。本屋にでもよろう。うん、そーしよう」
本来ならば、そのまま学校へ行くべきなのだが、夏樹の考えは『一時間目の途中から教室に入って恥をかくより、一時間目終了と同時に入る』というものだ。
思いつくや否や、目の前の地下鉄の駅にいく道路からずれ、ビルとビルの間の小道に入った。その先には、健斗という友人から教わった小さな本屋がある。
この時、夏樹が直行していたのなら、寝坊していなかったのなら、外れることは無かったに違いない。
普通という道から。
そして、夏樹は見た。
自らの日常が壊れる様を。
漆黒の帳が現れ、崩れた瞬間を。
最初は。
寝ぼけていて、幻覚か夢でも見ているのかと、夏樹は思った。
しかし、羽ばたく羽音、風圧、飛び散り当たる氷の欠片から、それは現実なのだと夏樹の頭は理解した。
理解したと同時に、今度は畏怖と戦慄に襲われる。それによって逃げ出したくても、足が恐怖で動かないため逃げ出せないのだ。
そんな時に、青年と目が合ってしまった。
青年は即座にその背に黒色の翼を生やし、時速六十キロメートルの速度を出し、捨て身の体当たりを仕掛けた。
打ち砕かれる骨の音。
そんな音を聞きながら、夏樹は意識を失った。