1.13 Yuri Minakami(2027.4.12)
とてつもない羽ばたきとともに、百合に向けて羽の弾丸がカラスから打ち込まれた。
「……」
しかし羽の弾丸は百合に届くことは無かった。それは、百合の『能力』によって作られた氷の壁により防がれた。
「クァァッ!」
カラスは、接近戦に持ち込もうと自らの身体を弾丸の様にして、加速を始めた。
百合は、そんなカラスを見て、氷の盾と氷の槍を作り出す。水蒸気を凍らせて作ったものだ。
「クアァッ! クアァッ」
カラスはさらに加速する。百合はその攻撃を氷の盾で防ぐが、加速されたカラスの衝撃により、小柄な百合の身体が吹き飛ぶ。ただ力の流れに逆らわず吹き飛んだので、衝撃は少なかった。そのまま着地と同時に体制を立て直す。
「……凍結結界」
その一言を述べると百合は槍をカラスに向けて投げる。カラスはそれを見ると逃げようとするが、くちばしが氷の盾に刺さり、抜けない。
「クワァッ! クワァ?」
どうにかして氷の盾からくちばしを抜こうとするカラスだったが、追い討ちをかけるように百合はカラスそのものを凍らせた。カラスの体を穿つ銀色の軌道。その氷の槍がカラスの体の中で一瞬に水蒸気に変化する。
急な膨張に耐え切ることができなかった巨躯は、内側から弾け飛んだ。黒色の羽が宙を舞い、漆黒の帳が形成される。
帳が崩れ去ったとき。その中から、一人の青年が出てきた。
「――っくしょお!」
少年は膝を折り、拳を地面に叩きつけた。
そんな少年を見つめながら、百合は胸で十字を切る。
「反逆罪、治安維持法の為、法律を適応。ただいまから、死刑を執行します」
祈りをささげた後、百合はバイザーに内臓されているインカムに向けて話しかける。
しかし、そんな中。
「……っ、はは、ははは……」
青年が突如立ち上がり、笑い始めた。その視線は百合を見てはいなかった。百合は気になりその視線の先を見た。そこには。
紺色のブレザーを着て、自転車を押し、畏怖と戦慄に顔を恐怖に染めた、黒い癖っ毛が特徴的な少年がいた。