1.11 Natuki Kaminari(2027.4.12)
………。
……。
…。
ドスン。
何かが落ちる音がした。
「……いってぇー」
茶色の木目の床。
ジャージ姿の、黒いくせっ毛が特徴的な少年が、痛みに涙を浮かべながら倒れていた。
「に、しても……またあの夢か……」
少年は、名を神鳴夏樹といった。
普遍的な体型、顔も五十点位という評価が返ってくる顔立ちで、成績は中の上、特技は無しという、あまりにも変哲の無さすぎる高校生だ。
普通でないところと言えば、3LDKのマンションに一人暮らしなことと、毎晩同じ夢を見ること。
夏樹が体を起こす。すると、どこからか音楽が鳴った。彼の携帯電話の着信音だ。
「あれ、電話かな?」
夏樹はポケットから携帯電話を取り出す。そして通話状態にすると、そこから女性の高い声が聞こえてきた。
『やあやあ夏樹。今さっきまで寝ていたな?早く起きろー』
「先生、まだ朝は早いですよ」
夏樹はその声に、意味の理解できない返答をする。
その電話は、夏樹の担任教師の黒川からの電話だった。
黒川は夏樹の親戚らしく、一人暮らしである夏樹をいろいろと手助けしてくれている。
『早いって、やっぱり寝ぼけているじゃないか。時計があるなら早く見ろ。はい、スタート』
夏樹は言われたとおりに携帯電話で時刻を確認する。
そして、そこに示された時間を見て、沈黙した。
――九時十分。
携帯電話に表示されている時刻で、始業時間の十分後の時間。
「えっと、せんせ? これは、夢じゃないんですよね」
『そうゆーことだね。それじゃ、アデュー』
黒川はそういい切るのと同時に電話が切れた。
その後、しばらく夏樹は沈黙に包まれる。
静寂が夏樹を軽く突き動かす。
「って、遅刻じゃねーか!」
そう言う夏樹はジャージを脱ぎ捨て、一分足らずで着替え終えると、家を出て行く。
上がりきった日光に、照らされながら。