1.21 Natuki Kaminari(2027.4.13)
「なんていうかなぁ……」
起きた時の第一声がそれだった。
白いカーテン、白い電灯、銀色のカーテンレール。明らかに、病室。
そんな部屋に、夏樹はいた。
最初は状況把握しきれずに、何か変な事件に巻き込まれたのかと思い、本気で逃げ出そうとしたが、身体が動かない。縛られている様子もなかった。
(……薬……いや、麻酔か?)
妥当なラインで夏樹の脳は納得してしまった。
夏樹がそのまま思案を巡らせていると、ガラガラッと引き戸が開く音がした。唯一動かすことの出来る頭を、引き戸の方向へと向ける。そこには白衣を着ていた男性――医者だろう、おそらく――がいた。
「おや、目覚めましたか。神鳴さん」
理性を漂わせる眼鏡をして、平坦な口調で夏樹に近寄ってくる。夏樹は暇だったので、この若い医師と戯れてみることにする。
「……頼む、実験体にするくらいなら殺してくれ。せめて人として死にたい」
医者は少々驚いた表情をした後、くすくすと笑い出した。
「最近の高校生は面白いことを言うなぁ。ここは普通の国立病院だよ」
「……本当に?」
「うん。本当」
「取って食ったり……」
「するわけないじゃん」
ちなみにここからは本気で話している。
「……でも、病院にいる理由が思い当たらないんですが」
「うーん……脳にダメージはなかったはずなんだけど、もしかして事故のショックで記憶喪失かい?」
それは無いだろうと思う夏樹だったが、記憶を遡っても、ぼんやりとしか思い出せない。
「……すみませんが、今の日付と時刻、何が起きたのか教えてくれませんか?」
医者は近くにあったパイプ椅子を立てて、それに腰掛ける。
「了解しました」
そう言うと、医者は解説を始めた。
「……という訳です」
「理解しやすく説明してくれたこと、感謝します」
医者の話はこうだった。
昨日の朝方、自転車で走行中の夏樹が白色の乗用者と衝突。ひき逃げらしい。近くをたまたま通りかかった女の子が一一九番通報。怪我は大したことなく、体の左足にヒビが入ったことや硝子のものと思われる大きな切り傷くらいだったが、意識が戻らず、そのまま入院。今に至る。
ちなみに退院は今日にもできるらしい。しかし大事をとり、今日はここに居ることにした。
「その女の子さ、血見ても動揺しないのよ。それってなかなかレアな能力だと僕は思うんだよ」
「……はぁ」
女の子の容姿は、水色の髪の毛に白色のロングコートを着て、銀色のピアスを左耳にしたと、とても可愛いらしい小学生だという。
「まあ、会うことがあれば礼くらいは言っておきなさいよ」
そう言うと医者は立ち上がり、去っていった。