0.00 Start of despair(2022.12.24)
夕日を浴びながら、黒色のリムジンが高速道路を駆け抜けていく。
「きれーい」
その車の後部座席で少女――いや、十二歳だから女の子と言うのが適切だろう。彼女が感嘆の声を上げたのは、車が夕日を反射した木曽川を横切ったときだった。
「さあ、もうすぐ家につくぞ」
「やっと休憩できるわね」
女の子の目の前に座席に座った二人の人がいた。女の子の、父親と母親だ。
女の子は家に帰ることが嬉しいのか、そわそわとしている。
「百合、貧乏ゆすりはやめなさい。はしたない」
「あ、すみません。お母さん」
これは、一般的な家庭の話。
規模は違えど、どこにでもある暖かい家庭の話。
しかし、ここで世界は牙をむいた。
轟音とともに、橋の橋脚が爆発した。
「な、なに?」
「て、テロか?」
橋脚を失った橋が、自重と通行していた車の重さで崩れ落ちていく。橋脚を失った部分から崩れていき、橋に傾きが生まれた。通行していた車は流れ込むように川へと落とされていく。
「お、おい、逃げるぞ!」
「こ、怖いよ……」
少女の叫びに関係なく、車は重力に逆らわず落ちていく。周りから聞こえる音は、人々の悲鳴と橋の崩壊する音だけ。
「助けて!まだ、死にたくないよぉ……」
少女は悲鳴を上げ続ける。しかし、周りの音にかき消され、狂乱していた父親にも、母親にも、周りの大人にも届かなかった。
「おねがい……誰か……助けて……」
そう少女が呟いた時、意外な所から救いの手が差し伸べられた。
橋が崩れ落ちるのと同時に、少女の父親の鞄から光が放たれた。