0.00 Absolute Zero(2022.12.25)
しんしんと、雪が降り続く。
ここは、彼女だけが存在できる世界。彼女以外の物体を凍て付かせる世界。
「私は……こんなことを望んだんじゃないのに……。何でこんなことになっちゃったのかなぁ……」
少女の整った、しかしまだ幼さを残したその顔が、涙で濡れる。
少女の腰まである、透き通った海の様な長く美しい水色の髪の毛が、風で揺れた。
少女は知っていたのだ。それは人が求め、手に入れることは間違いであると。
少女は知っていたのだ。それは自らを滅ぼすものだと。
それでも彼女は、自らの生命を保つ為、自分の夢を叶える為、その力を欲したのだ。
少女を滅ぼすモノ。
それは少女の罪。
少女が一生かけても、またどのような善行をしても、決して赦されることのない、とても重い罪。
少女は歩き始める。一歩、また一歩。
少女が歩くだけで、少女の友人が、点滅する信号機が、あわてて逃げる銀色のワンボックスカーが、空を飛んでいるヘリコプターが、赤く、高くそびえ立つテレビ塔までもが、凍て付き、結晶化し、崩れ落ちる。
「……なんで?……なんでっ!」
少女が泣きながら、歩き続ける。すると、突如目線の先に、一筋の光が現れる。
その光は弱弱しく、点滅を繰り返している。自分以外に何もないこと、自らが一人でいることに悲しみ、恐怖していた少女にとって、まさに希望の光だった。
光は球体を形作る。始めのうちはピンポン球くらいの大きさだったが、徐々にその輪郭を広げ、人の形になった。
この光を人と呼ぶのに、少女は少し抵抗を感じてはいたが、勇気を振り絞り、聞いてみた。
「あなたは……誰?」
少女の声がこだまし、少女に、少女が出した声とほぼ同じ声で帰ってきた。光は、口と思われる場所を開け、言い放った。
「……『ミカエル』だ」
その声は、少女が想像していたよりも、ずっと幼い声だった。
『ミカエル』ということが鍵だったのか、光は、とてつもない閃光に変わった。
少女が視界を取り戻す。すると、そこには、一人の少年が立っていた。
獅子の毛のような、黄金の髪。白色のロングコートと銀色のバイザーで体を包み、左手にトリスアギオンの歌詞の刻まれた死刑執行人の剣という、剣先が平らな大剣を携えている。
ミカエルは、少女に、持っていた大剣を向ける。
「キミの暴走を止めに来たんだ」
少年はそう言うと、大剣を少女に突き刺す。少女はその言葉の余韻を聞きながら、その意識を闇に落とした………。
少女と少年の出会い。
それが、全ての光と闇の始まりだった。