偽りの自分
5、偽りの自分
その夜、前回のように夜八時にまた同じ焼き肉の店に行った。噂の真意を聞き出そうとしたが、なかなか言い出せなかった。いつ言い出せばいいのか分からず、迷っていた。それが、裕太に伝わらないようにいつも通りを意識して話をした。
僕は、自分で言うのは恥ずかしいが、演技をするのが上手い。いや、上手くなってしまった。
僕は、死にたいと感じた高校3年生のときから、ずっと偽りの自分で生きてきたからだ。
本当の自分の暗い感情を人に見せてはいけない。本当の自分を見せると、親は悲しむだろう。
先生、そしてクラスのみんなは僕のことを危ない奴だと思うだろう、そんな考えから、普通の人を演じていた。本当の自分の暗い感情を人に見せる勇気がなかったのだ。
そして、僕は、人からどう思われるかを常に気にして生きているので、相手がこんなことを言ったら笑うはずというのを無意識に察してその話をしていた。
そして、その話で相手が笑ってくれれば安心する。
ああ、この人は自分のことをただの面白い人だと思ってくれた。……そう思い安堵した。
さらに、周りからは、「豊マジで面白いな、なんも考えてなさそうでいいな」とまで言われるようになった。真逆だ。自分がただの面白い普通の人に見られるように必死に考えて、考えて行動していた。
自分の本当の気持ちを押し隠していた。そして、それを繰り返していくうちに自分がしんどくなった。
だから、一人が好きなのだ。一人でいる時間は、偽りの自分を演じなくてもいいので楽なのだ。
しかし、裕太には、偽りの自分を演じる必要がなかった。
裕太は僕の話をすべてきちんと聞いてくれて、しょうもない話でも笑ってくれる。僕の本当の暗い感情を出しても、優しく受け止めてくれた。
決して僕を危ない奴というような扱いはしなかった。だから、裕太には、安心して、自分の話したいことを話せた。自分の本音を言える唯一の人だった。
だが、その裕太にも、本音で話せなくなってる現状が悲しかった。
裕太にも、偽りの俺で接するのが、嫌になった。
本音で、裕太と話したい……そんな気持ちが、話をしてる中で抑えきれなくなった。
焼き肉を食べ終えて、前回のように車で話そうとなった。
車のシートを倒し、二人仰向けになった。
僕は、ついに話そうと覚悟を決めた。