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生きる自殺志願者  作者: かいせい
6/10

僕と裕太

 初めはゆっくりと発進したはずの車だったが、すぐにスピードが速くなる。

裕太の運転は見かけによらず雑だ。

僕の家までの帰り道の道中、裕太の運転は明らかにスピードを出しすぎていた。しかし、僕は、自分と同じ思いをしている人がいて、それが自分の一番親しくしている友達であったことが嬉しくて嬉しくてそんなことどうでもよくなった。


一般道を八十キロ近くで走る。今、人が道路に飛び出せば、ブレーキは間に合わないだろう。だが、良い。事故ってもいい。人を撥ねて人殺しになってもいい。そして、死刑になってもいい……そんな思いが湧いた。

二人の自殺志願者を乗せた黒のセダンは軽快に走る。

車の中にいるのに心地よい風を感じる。気持ちがいい。時刻は、深夜二時を回った。町の街頭がぽつぽつとあるだけで、ほとんど真っ暗だ。

しかし、そんな暗闇、僕たちが持っている心の闇には到底かなわない。

僕たちの勝ちだ……裕太といるこの瞬間だけ、なぜか自分が無敵のように思える。普段、怯えている周りの人の目も、気にならない。誰とでも、コミュニケーションを取れる。周りのキラキラした奴とも、一緒に騒げる。

なんでもできる……そんな気持ちになった。


僕の家のマンションに到着して、裕太にお礼とバイバイを言って別れた。

そして、一人になった。でも、今までとは違う。僕は、一人ぼっちじゃない。



 それから、二か月たった。相変わらず僕は裕太と一緒に授業を受けていた。裕太と出会い、少しだけ死にたいと感じる時が少なくなった。何となく授業を受け、くだらないことを裕太と話し、家に帰ってスマホをいじる。そんな日々が続いていた。もしかするとこれを幸せというのではないかとさえ思っていた.


 そんなある日、大学で井村大樹が僕に突然話しかけてきた。大樹とは、高校が同じというだけで、特に仲良くない。学部も違うので、顔を見るのも久しぶりだった。相変わらず、変な服装をしていた。そんな大樹が急に話しかけてきたので少し驚いたが、大樹は

「豊、吉川裕太って知ってる?同じ学部やろ。」と聞いてきた。

何か嫌な予感と不思議な感情が同時に湧いた。

「うん」

「マジで。どんな奴なん?」

「なんでそんなこと聞くん?」

「いや、そいつがさあ、大学中のいろんな人に怪しい宗教勧誘してるねん。ヤバくない?」

愕然とした。そして、すぐにそんなわけはないという思いが湧いた。

「うそやろ?そんな訳ないやん……」

「ほんまやで、先輩に聞いたし、周りもみんな言ってる。俺もされたもん。」

「なんて言ってきたん?」

「イベントがあるから来ませんかっていうビラを渡されてんけど、そのイベントについてネットで調べたら、怪しい記事がいっぱい出てきてん。たぶん、あれは完全にカルト宗教やと思う」

「それ本当なん?ホンマに裕太やったん?」

「俺も、顔は見たことなかったから分からんかったけど、眼鏡かけてる色白の人やろ。吉川裕太やってみんなが言ってたで」

「絶対嘘や。裕太がそんなことするわけないやん」

「ホンマやって。ほんで、豊、その人のこと知ってるの? 教えてくれ。ヤバい奴なん?」

「いや、普通やで」

「どんな感じなん? もっと聞かせてよ」

「いや。普通やから分からへん」

「えっ、豊、喋ったことあるん?」

「普通に結構喋ってるで」

「やばー。豊は、大丈夫やんな?」

「大丈夫って何が?」

「いや、狂ってんのかなと思って」

狂ってる……? 裕太が、狂っている? そして、俺も、狂っている?

いやそんなはずがない。俺は、人生に絶望しながらも、生きているただの臆病者だ。コミュニケーションが取れずに周りから見るとそのように見られるかもしれない。だが、決して狂ってはいない。

「俺は、全然普通やで」

とすぐに返答した。さっきから普通という言葉を連呼している。

動揺のせいか、自分でも、受け答えがいい加減になっていた。


「お前も、気を付けたほうが良いで」

「何を?」

何を気を付けるのか全く分からなかった。

「そいつに。吉川裕太っていう奴に。やっぱ、宗教勧誘とか、普通の見た目の人がしてるから、怖いな」

「ああ」

そうか、大樹からすると、裕太はヤバい奴なのか……。

「ほんじゃ、バイバイ」

「ああ」と軽く手を振っり返した。

「嘘や……嘘や……嘘」に決まってる。裕太がそんなことするはずがない。

意味が分からない。自分に何度も何度も言い聞かせる。

自然と早歩きになる。いつも人目を気にして歩く大学の廊下を駆け抜ける。周りなんて気にならない。この時、初めて人目を気にせずに大学のキャンパス内を歩いた。裕太のこと以外すべてがどうでもよくなった。

「嘘に決まってる、裕太……、裕太……」

そして、早歩きのまま次の授業の教室に向かうと、裕太がいた。

いつものように、後ろの方の席の窓際に座っている。僕は、裕太の姿を見て少し安心した。

そして、いつも通りに振舞わなければならないと直感した。ここで、そんな話は出来ないし、なんて言ったらいいか分からなかった。普段通り、軽い挨拶をして、横に座り、僕から話しかける。

「この土日何してたん?」

「普通にバイト。忙しかった」

そんなどうでもいい会話をしていたら、授業が始まった。


……そして、これが、裕太と一緒に受ける最後の授業になってしまった。


 その日は、この授業しかなく、裕太としっかり話す時間がなかった。僕は、バイクで大学までいっているが、裕太は電車なので帰り道も違い、話す時間がなかった。しかし、僕は、どうしても噂が本当なのか知りたかった。知りたいという欲求、衝動が止めれず、今日、再び裕太と晩御飯を食べに行くことを約束した。



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