出会い
3、出会い
そんなときだ。
大学一回生が終わり、大学二回生の前期の授業が始まろうとしていた四月。
彼と出会った。
一回生のときは、彼のことを全く知らなかった。
それは当然だった。彼は、この二回生になるタイミングで別の大学から編入してきたのだ。
編入という制度をよく理解していなかった僕は、別の大学から、編入してやってきたという彼に興味が湧いた。
僕は、友達が高校時代からずっと少なかった。
大学に入っても、周りには、大学生活を楽しもうとして生き生きした希望を持っている人ばかりだった。大学というキラキラした場所で、仲間を作り、楽しい四年間を過ごす。それが普通の人考えだった。
僕みたいに、絶望して大学に入ってきた人などいなかった。
それでも、初めの頃は、周りの人たちと仲良くできるように、振舞った。
僕は、普通の人でありたかった――
だから、必死に下ネタを言ったり、冗談を言ったりした。そうしていると
周りの人たちから「豊は面白い」と言われるようになった。
友達と呼べる人が大学で作れるかもしれないと思った。
しかし、そんな思いは長くは続かなかった。
冗談を言って仲間と楽しく過ごす自分。それは偽りの自分だ。
本当は、将来が不安で、生きることに絶望している自分がいる。
そんな思いが僕の心を支配する。
この思いから、目を逸らして周りの人と冗談を言って楽しむことなどできなかった。
自分の本当の思いから目を背け、冗談を言って周りの人と付き合うことがしんどくなった。
そうなると、どんどん一人でいることを望むようになり、彼らとの付き合いが悪くなる。
少しずつ周りからも煙たがられる。
そして、最後には、一人ぼっちになってしまう。
普通でいたいのに普通でいられなかった……。
そんな思いが湧き、余計に自分が馬鹿らしくなった。
死にたいのに、生きている。
普通でいたいのに普通でいられない。
そんな矛盾が常に僕の中にあり、それが僕という人間をおかしくしていた。
そんな中、大学二回生になり、初めて彼を見たとき僕は、うれしくなった。
彼は、浮いていた。細身の体形、色白で眼鏡をかけていて地味な服装だった。
どう見ても、僕と同じよに大学生特有の元気さや新鮮さといったものが一つもない。もちろん、編入してきたというのもあるが、彼は、僕と同じように、賑やかな雰囲気を嫌い、少し冷めた視線で周りの人達を見ていたのだ。
それから、僕は彼に積極的に話しかけた。ぎこちない笑顔を浮かべながら、会釈をし、
「名前、なんていうの?」
「吉川裕太」
「俺は、元木豊やで、よろしく」
「うん……」
そんな会話から始まり、僕と裕太とはすぐに仲良くなった。
授業も、一回生のときは、一人で受けていたが、裕太と一緒に受けるようになった。
裕太と一緒にいると落ち着く。裕太は、僕と同じで大人しく、社交的な人ではなかったのだが、仲良くなると普段の真顔の表情が嘘のように笑ったり、いたずらをしたり、つまらない冗談を言ってきたりする。裕太は本当は明るい人なのだと思った。僕と同じだ。
しかし、僕は、不安、絶望、劣等感……などのせいで暗くなった。
偽の自分でいることがつらくなり、自分の心を閉ざし、裕太と話すときだけ自分を出すようになった。
だから、裕太も何かを抱えて生きているのではないか……
そして、それが僕と似たようなのかも知れないと思い、うれしくなった。