7/29 勇者殺害の謎。
結論から先に言うと、ティナは日本人ではなかった。
むしろこの世界の住人ですらなかった。
まだ全てを話しているとは思えないが、それだけはハッキリした。
そして、ティナの兄は勇者であり、魔王に殺されたそうじゃ。
しかしそうなるとおかしな話になってくる。
なにせわしは勇者にボコボコにされたのじゃ。
逃げた先が何故かこの世界だっただけ。
ティナの話を聞いて不思議な部分はいくつかある。
まずは勇者はわしを倒した。わしは勇者を殺してはおらんし致命傷をあたえた覚えもない。
そして、ティナはどうしてこの世界にやってきたのか。
理由と、方法。
そのへんに関してはよく分からないとはぐらかされてしもうた。
あれは何かを隠しておる。
理由や方法は全くわからぬが勇者の件ならばいくつか推論を立てる事もできる。
たとえば、わしのいた世界とティナがいた世界が別である可能性。
別の世界で、そこの魔王に勇者は殺された。
あるいは、わしと同じ世界じゃが違う魔王に殺された。
この場合、あの時代にわし以外に魔王を名乗る者が居たとは思えぬのじゃが……。
それも、時間軸が違うとなれば話は別じゃ。
もしかしたらわしより何代か前の魔王に殺され、ティナは時間と世界を飛び越えて来ている可能性。
そして、わしとしては一番確率が高いと思っている推論がある。
勇者は仲間に殺された。
わしが殺した事にして、魔王討伐という栄誉をその身に受ける筈だった勇者を殺害し、仲間の誰かが、あるいは残りのメンバー全てが地位と名誉、そして富を得る。
あの世界の事じゃからありがちな話であろう。
いくら勇者といえど完全に信頼しきっている仲間から寝首をかかれれば流石に手も足も出まい。
勿論ここに記した可能性は全てわしの推論、妄想である。
ティナが秘密にしている事がわかった時、もしかしたらその秘密にもう少し迫る事も可能になるやもしれんが……。
しばらくはわしを恨んで生きるのも良かろう。
もっとこの世界で自分の居場所とやりたい事を自らの意思で選び取るその日までは、わしを恨む事すら生きる為の糧となろう。