6/19 メイドの居る生活。
だまされた。
今日は朝からずっとそわそわしていた。
メイドが今日からこの家に住み込みになるのじゃから純朴なわしはドッキドキじゃった。
メイドは簡単な手荷物だけを持って我が家にやって来て、手早く各部屋の掃除、洗濯をこなしわしに手料理を振る舞ってくれた。
美味かった。この世界に来てから今まで食べた食事の中で間違いなく最高レベルの料理が所狭しとテーブルに並び、わしは驚いた。
メイドは後で自室で食べるとか言うのでご主人様命令で一緒に食事を取った。
くだらない談笑をしながら、おそらくわしの人生において一番心安らぐ時間を過ごした。
なのに。
なぜわし、涙が止まらないんじゃろう。
いや、その答えは明白じゃ。
さっきメイドの芽衣子をわしの部屋に呼び付けると、芽衣子はその豊満な胸を揺らしながら部屋に入ってきて、何をご所望でしょうか? なんて言うのじゃ。
ほんとは昨日飲んだお茶をまた頼もうと思ってただけなのにメイドが、メイドがあまりに挑発的な身体をしてるもんじゃからわし、つい言ってしもうた。
そうだな、まずは服を脱げ。
勿論断られるのは分かっておった。
じゃが契約上わしの命令は絶対で、嫌なら無理矢理脱がせる事も出来るはずじゃった。
しかしあのメイド、あのメイドなんなの?
わし涙がとまらないよ?
こんなに泣いたの幼い頃にパパ上が浮気してママ上が出ていった時以来じゃ。
わし魔王じゃよ?
魔王様じゃよ?
言う事を聞かないメイドを無理やり脱がそうとして普通にボコボコにされた。
あの打撃の重さたるや勇者一行の格闘家すら凌ぐのでは?
あの素早さたるやまるで冒険開始からためておいた素早さの種をすべてたいらげた踊り子が風の精霊の加護でも受けているかのようじゃった。
わし殺されると思って思わず本気で氷魔法をぶっ放して氷漬けにしてしまったのじゃが、事もあろうにあのメイドときたら内側から氷を粉砕して復活しおった。
わし、初めて死を覚悟した。
今も手が震えておる。
あの勇者との戦闘、敗北した時にすらこんな恐怖感じた事はない。
氷から出てきたメイドは無言で砕け散った氷を掃除して、茫然自失状態のわしに向かってこう言った。
もう一度伺いますが、何をご所望ですか?
それはもう何事も無かったかのように美しい笑顔じゃった。
わしはとりあえず涙流しながら土下座して部屋に帰ってもらった。
わしが馬鹿じゃった。
知らんかったんじゃ。
メイドという職業があんな恐ろしい能力を秘めた物じゃったとは。
おそらくこの世界では最上級ジョブに違いない。
わし、この屈辱は絶対に忘れんぞ!
だからここにきちんと嘘偽りなく記しておく。
あの女は魔王より、勇者よりも恐ろしい。
しかし必ずや、必ずや目にもの見せてくれるわ。
その日を心して待
びっくりした! びっくりした!!
突然メイドが部屋に入ってきてわし心臓潰れるかと思った。
何やら茶を持って来てくれたらしい。
昨日飲んだやつじゃった。
相変わらずとても良い香りがして、とても美味。
それを告げたらあのメイド、にっこり笑って
良かった♪
って言って自室へ帰って行った。
復讐は、また今度、そのうち、当分の間は大目に見ようと決めた。