魔王「その剣、ちょーだい」-4-
「ねぇねぇ」
「なに、どうしたの?」
「その剣、ちょーだい」
「やだよ」
幼女が私の背中に巻き付いている。私は歌を歌っている。
「なんで、やなの?」
「今、歌ってるから」
「なんで、さっきから歌ってんのさ」
「なんだか、気分がいいから」
幼女はきょとん、としている。
「あれ、何か気分が良くなることなんてあったかしら」
「まあ、魔王様にはわかんないだろうねぇ」
「無礼者。私に分からないことがあると言うのか……貴様は」
「まぁ……残念ながらねぇ」
幼女が殺気を放つのを確かに感じた。幼女は私の背中からそっと離れた。
「今、取り消せば許してやるぞ。……勇者よ」
「あら、短気なんですね。魔王様って」
「……お前が最近おかしいのだ。何かにつけて、私の気に障るようになった」
「プライドが高すぎるんですよ、魔王様は」
幼女は術式を展開する。幼女の周りの宙に赤い魔法陣が幾つも描き出される。
「……本気で私に敵うと思うか……貴様は」
「いや、十中八九魔王様の勝ちでしょうね」
「ならば、ここらで、私に一言謝った方がよいだろうな……」
「…………いいですよ、……もちろん」
私はその場で膝を着いた。そして、胸元に隠した短剣を握りしめる。
「よかろう、そのまま頭を地面に打ち付けるのだ」
「……仰せのままに」
「馬鹿、ホントに打ち付けるものがあるか。そこまで、せんでよい」
「……」
私は短剣を胸元から引き出すと、地面を凪いだ。すると地面は割れ、この空間を歪め始めた。
周りにあったものは失われ、現実へと帰還しようとしている。
幼女は私の突然の行動に驚愕した様子であったが、すぐに悲しそうな笑みを浮かべた。
魔王「その剣、ちょーだい」-4- -終-