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坂口くんが好きです。  作者: 渡辺和希
4/4

その4

坂口くんが好きです。

そう書かれた手紙を娘の部屋で見つけた時、初めは娘もついにラブレターを受け取るような歳になったのかと思った。次になぜ坂口さんでなく坂口くんなのだと疑問に思った。

掃除機から手を離し、算数のノートからはみ出した手紙を引き抜いてみる。よく見ればそれは見慣れた娘の字で書かれていて、少し考えてこの手紙の坂口くんとは同じクラスの男の子を指しているのだと気が付いた。

なるほど。娘は坂口くんが好きなのか。同じクラスに同じ名字の男の子がいるとは聞いていたが、どんな子なのだろう。


そんなことを考えながら買い物に向かう。お花屋さんの前を通ると、バイトを終えたらしい女子高生が彼氏と手を繋いで駅の方へ歩いていくのを見た。

そういえば娘は将来はお花屋さんになりたいと言っていた。

何年かしたらあんな風にアルバイトをして、帰りには男の子と手を繋いだりするのだろうか。


恋愛とか将来の夢とか、そういうことを自分に関係することでなく娘に関係するものだと考えるようになったのはいつ頃からだろう。娘が産まれた時か、あるいはそれよりも前だっただろうか。

試しに自分のことを考えてみる。

将来の夢はなんだっただろうか。確かかっこいい何かになりたかった気がする。

恋愛というものがドラマの中だけでなく、自分のものだったのはいつまでだっただろうか。伝えたかった想いが伝えられなかったり、一生一緒にいるのだと信じていた恋人とあっさり別れたり、確かにあったものが静かに終わったり、そんなことが靄がかかったようであまり現実味が感じられない。

それに比べたら娘が大きくなってバイト帰りに男の子と手を繋いで帰っている光景の方がいくらか現実に近いように思えた。


本当に、いつからそんな自分から遠くのものになってしまったのだろう。

案外、まだ近くにあったりするのだろうか。

夫が帰ってきたら試しに言ってみよう。どんな反応をするのだろう。

長らく遠いところにあった言葉を、練習で口に出してみる。

「坂口くんが好きです」

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