表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
坂口くんが好きです。  作者: 渡辺和希
1/4

その1

坂口くんが好きです。

そう書いた手紙を渡せないまま、また1日が終わってしまいました。今日も渡せなかった、でも明日がある、今日もダメだったけどまた明日、今日も勇気が出なかった。そんなことを繰り返している間に、明日は卒業式です。

6年間のおしまいが明日なのだと思うと不思議な気持ちです。


私の将来の夢は警察官になることです。だけど私のママは、私がお花屋さんになりたがってると思っています。多分幼稚園の頃にそう言ったんだと思います。なので本当は警察官になりたいけれど、お花屋さんになりたいフリをしています。


ある日教室で本を読んでいる坂口くんに声を掛けました。友達がみんなトイレに行ってしまいやることがなかっただけで、声を掛けたことに特に理由はありません。

「何読んでるの?」

確かそんなことを聞いたんだったと思います。坂口くんは、読んでいた本の表紙を見せながら探偵小説だと答えました。探偵と、相棒役の婦警さんが街の事件を解決していくのだ、と。

その時の坂口くんの声が思っていたよりもずっと低くて、私の耳に心地よく響きました。私は、不意に坂口くんに教えたくなって、将来の夢は警察官なのだと言いました。かっこいい婦警さんになりたいのだと。誰にも教えてない、ママですら知らない私の将来の夢です。

坂口くんは興味なさそうに「ふーん」と言い、また本を読み始めました。その反応も、私にとってとても心地が良く、満たされたような気持ちになりました。


家に帰ってから坂口くんに手紙を書きました。坂口くんにもっと私のことを知って欲しいと思いました。誰にも秘密にしてることも、全部全部坂口くんに教えたいと思いました。

一晩かけて書いて次の日に持ってきた手紙は、いざ坂口くんを前にするとなかなか渡すことができませんでした。


ついに卒業式の日、ちゃんと手紙は持ってきています。今日が最後のチャンス。今日こそちゃんと坂口くんに手紙を渡すのだと思っていました。

でもやっぱり坂口くんの前では緊張してしまいました。じっと固まったままの私を見て、坂口くんはあの心地の良い声で「じゃあね」と言いました。

私も笑って、「じゃあね」と手を振りました。


今日も手紙を渡せませんでした。


大丈夫、お別れじゃない。私達の済む地域には中学校が1つしかないので、春からも同じ学校のはずです。

大丈夫、春休みが明けたら今度こそ坂口くんに渡せる気がします。中学生になったら、大丈夫なように思えるのです。

その時は手紙だけじゃなくて、直接言えたら良いと思います。

「坂口くんが好きです」と。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ