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修行

お久しぶりでーす。一週間分すっぽぬかしました。後半は勢いで描いてます。ご容赦ください。


ブクマ、評価ありがとうございます


10/15 二話と三話に話の修正を加えています。

「時の部屋?何かおもしろそうなところね」


 恐らく時間の流れが速いのだろう。

 修行かぁ、なにするんだろう。


「ヨゾラ、やっぱり修行するより先にタレントを解放しない?」


 あら、もっと後で解放されるものだと思っていたけれど、もうできるのね。

 タレントは任意で選べない代わりに、その人にぴったりのものがもらえるらしいし、楽しみね。


 古びた屋敷をでて、勝千代と一緒に里の外を散策する。不思議な白バラを探すためだ。


「ねえ、ホントにこんな場所に白バラなんか生えてるの?」


 ここら一帯は、荒れ地ばかりで花が咲くようには思えない。むしろ生えていたらびっくりだ。


「ああ、あの花は必要な人がいたら、その近くに適当に生えてくるから。大丈夫だよ」


 はあ、そういうものなのか。

 その後は、くだらないことを話ながら探していた。


「あっ!あったよ。採ってくるから待ってて」


 勝千代が岩陰を指して、元気よく駆けだしていく。

 確かに虹色がかった白い薔薇が顔をのぞかせていた。


「これが不思議な白薔薇だよ。もうここでつかっちゃう?」


 うーん、修行の方向性も決めやすいし、ここでやってしまった方がいいかな。


「うん。それでなにをすればいいの?」


 勝千代が懐から、小刀と瓶を取り出す。


「すこーし、血が必要なんだけど、右手出してくれない?」


 え、血がいるの?

 少し不安に思うけど、大人しく手を差し出す。


 勝千代がそっと刃を肌に添える。予防接種の注射よりも緊張する。

 うぅぅ……


 ザクッ


「っ~~~~~ぁ」


 声にならない悲鳴があがる。これめちゃくちゃ痛い。痛覚設定いじれないんだっけ。


 そう思いつつ傷口をみると、かなり深い傷が付いている。

 話がちがーう。


「動いちゃだめ。血を集めるまで我慢して」


 痛みに耐えながら数分が過ぎた。


「ねぇ、少しって言ったのに!こんなに深く傷つけて!」


 勝千代が申し訳なさそうにする。


「この白バラが要求していた血の量が普通よりも多かったんだよ。先に伝えなくてごめんね」


 そっか、そういうことだったのね、納得……ってするか!

 とてもとても痛いんだけど。


 痛覚設定はメニューにないしなぁ。


「そろそろ十分かな。包帯の代わりに布でも巻いといてあげるよ。気休め程度だけどね」


 そう言って白い布を巻いてくれる。赤く染まって痛々しい。


 血を集めた瓶には白い薔薇をさしている。その光景に何のホラーよと思った。


 特にすることもないので、恒例のお空観察タイム。


 どのくらいたったかな。気づけば勝千代は船をこいでいる。

 瓶の方に目をやると、血を吸いきった白かったバラはみずみずしい水色に……えーっと、この色は何だったけ……ああ、そうだ!勿忘草色だ、そんな色合いに変化していた。


 あんなに白かったバラが赤い血を吸って、青くなるって不思議だな。


 勝千代をゆすって起こす。

「ねぇ、起きて!色が変わったら、その後はどうすればいいの?」


「うにゅ?……わぁ、珍しい色になったね。

 変化する色って、その人の好きな色になるんだって、ヨゾラはこの色が好きなんだね」


 はて?私の好きな色は白か黒、臙脂色何だけどな。

 ……ああ、小さいときのクレヨンか。友達からこの色のクレヨンをもらって、どんな絵を描くときにも、この色を使ってた気がする。もう15年近くたつのかぁ。


「小さいときに好きな色だった気がするわ」

「やっぱりね。

 この薔薇凄いでしょ?

 血だけでその人の好きな色になっちゃうんだから。でも単色ってことはタレントの数は少ないかもね」


 なにそれ、ちょっと残念。でも量より質よね。


「これをよく噛んで食べてね。そしたら解放されるから。ホントは煎じて飲むんだけど、摂取さえすれば問題ないから」


 これを食べるのね。とげとか心配だけど。


 頂きます


 モグモグモグモグ 


 モグモグモグモグ


 バリバリバリバリ


 意外と甘くて美味しいわね。気付けば茎まで食べちゃったわ。

 食べ終わると痛かった傷が光って綺麗に治ってしまった。


「無事解放できたみたいだね。傷が治るのは解放された合図だし」


 すごいなあ。

 それではお待ちかねのタレントを確かめるとしましょうか。


 どれどれ?


 ーーーーパーソナルデーターーーー


【タレント】

 〈天狐〉 天狐の能力 空を歩く、天候操作が出来る。


 〈空間認識能力〉 空間を認識する。


 〈シックスセンス〉第六感を持つ。


 ーーーーーーーーーーーーーーーー


 最小の三個ね。それに内容も天狐以外パッとしないわね。何より説明文が短いから、何ともいえない。

 どうしたものかしら。


「あなた達の能力以外はよくわからないわ。それにしてもやっぱり三個だけだったわね。残念」


「タレントは磨き方次第では、化けるからね。僕の〈器用貧乏〉のようにね。タレントは宝石の原石なんだから」


 勝千代はなんか微妙なネーミングのタレントを持ってるようだ。

 まあ、彼の言うとおり使っていくうちに良さが分かってくるだろう。


 じゃあ、次はついに修行ね。とても長いチュートリアルとでも言えばいいかしら。


「早く修行をしましょうよ。待ちきれないわ」

「ん、少し待ってて」


 勝千代が辺りに光の靄を漂わせる。


「じゃあ行くよ」


 ログイン時の意識が切り替わる感覚がする。


 なにもないだだっ広い空間に着いた。


「はい、着いたよ。ここは君たち渡り人が基本的な技術を身につけるところだよ」


 周りにはうっすらと鍛治を学んでいる人や剣を習っている人などが見える。


「ここは時間の流れがとっても速いからね。休憩したい時はすぐに言ってね」


 そこらへんに寝そべっているのは、ログアウトして休憩している人だろう。


「じゃあ、僕も人の姿に変化するね。目立ちたくないし」


 ボワンと煙を上げて、中性的な顔立ちの青年に変わった。服装も和装だ。


「ここでは修得したいスキルを最大六つ学べるよ。数が多ければ多いほど時間はかかるけどね」


 表示されたスキル一覧からやってみたいものをピックアップしていく。

 〈薙刀〉に〈双剣・双刀〉どっちがいいかしらね。

 どっちもとってしまいましょ。


 他には〈生活の心得〉と〈暗殺関連技術〉を取得してみましょうか。


「この4つで決まりだね。うん。武技を二つ修めるのは良いことだね。けど、魔法を覚えなくていいのかい?」


「ここじゃなくてもできるんでしょ?」


 狐の里にはいかにも仙人といった具合のおじいさんたちがいたので、その人たちに聞いてみようと思う。


「そうだね。そういうと思ってたよ」


 見透かされていたみたいだ。


「ともかく、魔法を覚えないなら、生活の心得から始めようか。と言っても座学中心だから、メモしといてね」


 それからしばらくは、勝千代の実演を交えた講義によって野宿の方法や社会常識、食用物について膨大な情報を学ぶことになった。所謂ヘルプみたいなものね。そのおかげか、メニューに・ヘルプ『東龍皇国』が追加された。

 これってとらない人達は大変そうね。




「次は薙刀をやろうか。と言っても僕は教えることが出来ないし、基本以外は我流でいいよ」


 何ともテキトーな教官ですね。


 勝千代が私に薙刀を渡してくる。ただの薙刀ってアイテム名ね。


「それはプレゼントね。じゃあ基本的な動きをしていこうか」


 そこからしばらくは足捌きなどを反復していく。だんだん動きがスムーズになってきた。


 ある程度の動きを覚えるのにかなりの時間を費やす。途中でログアウトして、ヨウツベで関連動画をみてたのは内緒。


「最後は実践形式といこうか。ただ勝てばいい、それだけだから」


 よし、始めようか。


「いくわよ!」


 かけ声と同時に踏み込んで、喉元めがけて突きを放つ。

 勝千代は器用に薙刀を使って、私の得物を絡めて弾く。その拍子にスポッと手から抜けてしまった。


 しまった!


 そう思ったときには手遅れで、勝千代の振るった刃が私の首に達そうとしていた。

 コマ送りのように時間が過ぎる。そして、刃が首に当たった瞬間、ぶわっと冷や汗をかいた。ゲームのはずなのに、痛みはなかったのに、言いようのない恐怖心に包まれながら、意識が切り替わった。


 気がつくとゲームを始めたときの部屋、つまりホーナーさんのいた部屋に着いた。


「ホッホッホッ、初めての臨死体験は恐ろしかったじゃろう。ついでに言うと痛覚が現実と変わらなくてびっくりしたじゃろう」


 はぁはぁ、少し落ち着くまで無視しておこう。


 スーハースーハー


 深呼吸をして大分落ち着いた。


「落ち着いたかな?心配せんでもショック死しそうな痛覚はカットされるぞ」


 そうなんだ、それにしてもびっくりしたなぁ。


「人間というのはな、実際に死ぬことはないとわかっていても死の恐怖を感じてしまうんじゃ。」


 ふーん、そうなんだ。


「最初に死ぬプレイヤーは皆似たようなものじゃよ。この世界は死まで忠実に再現されてるからな。いろいろと学ぶことも多いじゃろう。まあ、楽しむのじゃな」



 そう言うと意識がまた切り替わり始める。



 目を覚ますと、知らない天井な訳なくて、勝千代がのぞき込んでいた。


「首ちゃんとつながった?ごめんね。あんなに綺麗に飛んでくとは思わなかったんだ」


 言われて首のあたりをペタペタ触る。

 良かった。切れ目なんか見つからない。


 いやあ、さっきの時間はとても恐ろしかった。

 ついでに死に際の様子を確認したが、勢いよく振り抜かれた刃と飛んでいく生首は、トラウマレベルだと思う。


 それでもすぐに再戦しようと思ってるあたり、懲りない奴だと我ながら思ってしまう。


「一回決着が付く毎に武器は変えるからね。どんな相手でも対処できるように」


 そう言う勝千代は刀を構えていた。

 今度は一本とってやろう、そう思って持ち手をしっかり握る。


 やぁあああああああ


 踏み込んで左手の親指をねらって切りかかる。勝千代はさっきと同じようにして今度は受け流そうとしてくる。


 振り抜いた勢いでバランスを崩さないように立ち回って、懐には入る。


 勝千代の刃と私の持ち手が火花を散らしてぶつかる。


 すっと離れて、フェイントを入れる。そして本命の突き。


 これは真剣を使った戦いだから、どこかに当たれば怪我を負う。怪我を負えばその分戦いづらくなる。そうならないように気をつけないとね。


 今まで上半身をねらって攻撃していたので、不意をつくつもりで脛を突く。


「甘いなぁ」


 ぴょんと跳ねた勝千代は突きを避けると、そのまま踏みつけた。瞬間、手が耐えられずに持ち手をはなしてしまう。


 容赦なく刃が顔に迫ってくる。白く反射する刀身がゆっくりと見えて……

 寸止めされていた。


 へなへなと尻餅をつく。ああ、やっぱり怖かったなあ。血とかは怖くないんだけど。


 人生で初めて脳天を叩ききられるところだったね。


 それから少し休みを取る。あまり心臓に良くないからね。



 休憩をはさみつつ、繰り返し繰り返し戦い続ける。


 慣れてくると余り大袈裟に避けなくてすむようになってきた。


「だいぶ動けるようになってきたね。まだ一回も勝ててないけど次で最後にしよう。最後は薙刀同士でやろうか」


 序盤は相手の出方をうかがう。打ち込んできたので、持ち手でしっかりガードする。そしてパッと懐に飛び込んで、持ち手に精一杯力を込めて押し込む。

 勝千代も抵抗して押し戻そうとしてきたので、ふっと力を緩めて、即座に腹に蹴りをいれる。勝千代の体勢も相まって、たたらを踏むようによろける。

 チャンスと思って、畳みかけるけどそこは冷静に捌かれた。でも蹴りは予想外だったのか、苦笑している。


 まだまだやるわよ。


 続けるように足下をねらった中途半端な突きをくり出す。勝千代の視線も下がって、また踏みつけようとしている。

 その油断を逃さずに、切り返して頭の方へ振り下ろす。

 何度も引っかかってたまるもんですか。


 この攻撃にはさすがに対処しきらずに、軌道を少しずらすのがやっとだったのだろう。肩口を大きく傷つけた。


 痛そうに顔を歪める。


 私の得物の刃に赤い液体がべっとり付いてる。

 もう勝負はあったと思ったが、絶妙に防がれてなかなか決定打を打ち込むことが出来ない。


 そして、攻め倦ねていると今度は勝千代が足払いを仕掛けてくる。

 ふと、直感的に石突で突くように、体が動く。吸い込まれるように勝千代の鳩尾へ突きが当たった。

 と同時に私も転ばされてしまった。


 急いで飛び起きると、苦しそうにうずくまってる勝千代がいた。


 私の初勝利ね。


 ボフンと音を立てて、現れたのはへばった狐だった。


「……全体的に良くなってたよ。最後まさかあんな所から石突が出てくるとは思わなかったし。僕も疲れたから少し休憩にしよっか」


 やっと休憩だ。最後は今出来ることを振り絞ってやれたと思う。

 そして褒められたのはとても嬉しかった。ただあれはどうもタレントのおかげな気がしてならない。たぶん第六感と空間認識能力がうまくかみ合って、あんな綺麗な位置に、突き出せたのだろう。


 何はともあれ勝ててよかった。



 休憩後は双剣・双刀の練習を始める。綺麗に舞うことで演舞をする事も出来るけど、まずは戦闘の方から。


 戦い方は基本的に流れるように動きながら、相手の首筋や手首、脚筋を裂くことでダメージを与える。乱戦向きだけど立ち回りが何とも難しい。


「ねえ、ヨゾラ。ぶっ通しで一ヶ月半分の経験時間すごしてるよ。向こうで仕事とかあるんじゃないの?」


 NPCにまで心配されるとは……はぁ


「大丈夫よ。仕事もないし」


 キリッと決め顔で言ってみる。


「そんな威張って言われても……まだ二十歳でしょ」


 ……聞こえませ~ん。


 気を取り直して“ただの双剣”を持つ。取り回しはいいけど、リーチは普通の剣と一緒で、耐久性に劣るとそんな武器だ。絶対に鍔迫り合いとかしたくないわね。動き方はあの名作ゲームを参考にしてみようかしら。たぶん無理でしょうけど。


「今回は僕じゃなくて、影にやってもらうね。複数の敵と戦うことにあるだろうからね。」


 どこからともなくのっぺらぼうの兵士たちが現れる。各々がいろいろな武器を持っている。


「僕のタレントの一つだから、動きはしっかりしてるよ。最初は3対1でいこうか」


 何度も何度も戦い続けて、流れるように動くことを理解しようとする。途中で金魚の訓練をした。反射神経を鍛える訓練らしい。ある武術家はこれを八年も続けたらしいからたいしたものだ。


 戦っていくうちにタレントの使い方もわかってくる。私の持っているタレントのうち〈空間認識能力〉と〈第六感〉はパッシブで、相手の攻撃を把握し対応するのにすごく役立った。


「そろそろ最後にしようよ。いつまでやってるの?はまりすぎだよぅ。もう三ヶ月はこっちにいるね」


 そんなに時間がたったのかな?そういえば結構たってるきがするわね。

 まあ、いい頃合いだし最後にしましょう。


「ヨゾラの武器が役に立つためには飛び道具の攻撃範囲を抜けていく必要があるんだ。だから最後は弓兵たちと戦ってもらいます」


 見慣れたのっぺらぼうの弓兵たちが現れる数は3人、護衛の剣士が1人の組み合わせだ。


「距離は十分にとったかな。それでは始め!」


 かなり離れた位置から三人の弓兵が矢を放ってくる。タレントのおかげで矢の軌道が手に取るようにわかる。どんどんよけて距離を詰めていく。


 近づけば近づくほど、矢の速さは速くなる。よけきれないものは剣でたたき落とす。


 相手が弓をつがえてる間に仕留めれる距離まで近づいた。ここからが本番だ。

 相手の剣士が弓兵を守るために、つっこんでくる。

 それは悪手だわ。だって弓兵がフレンドリーファイアしちゃうもの。


 躊躇うことなく弓を引き絞った弓兵の姿を見て少しにんまりする。これは釣れる。うまく剣士の攻撃をいなして耐久値管理もしっかりする。

 矢が放たれた瞬間、さっとバックステップを踏んで、剣士を誘導すると、見事に当たってくれた。手負いの剣士にとどめを刺して、弓兵を一人一人丁寧に処理する。


 数分後には首や手首を斬られて血塗れになった死体が4つ転がっていた。



 第六感と空間認識能力のフル活用だったわね。意外と使い勝手がいいものね。


「いやあ、大当たりのタレントだね。ここでの武技の修行は終わるけど、稽古場とかに行って練習してもいいし、我流で磨いてもいいし。これから先は自分次第だよ」


「最後は時の部屋じゃなくて、実際の場所でやるとしよう。僕たちの十八番、暗殺だね」


 天狐さんたち怖っ。特技が暗殺って、物騒ね。


 意識が次第に切り替わっていく。


「ここは東龍皇国の南島最大の都市【蓮夏】だよ。ここの芳田景継っていう男の暗殺を頼むよ。情報収集から自分でやってね。殺したらすぐに街の外にでること。そしたら逃がしてあげれるから」


 トーシロの私にどうしろと、そう思ってジト目を向けると観念したように、気配の殺し方、足音を消したり、塀をよじ登ったりは天狐の能力をうまく使えばいいことを教えてくれた。


 天狐の能力って暗殺のためにあるようなものじゃない。


 あと顔を隠す狐のお面と頭巾をもらった。尻尾と耳は透明化してもらう。

 これで準備万端ね。


 ついでに、暗殺する理由を聞いてみると、まだ幼い妖、まあ魔物の子供を密猟して西の大陸の西亀の国へ流してるそうだ。

 いろいろお世話になってる勝千代達のためにも、やってみよっか。


 じゃあ、いざ殺人、じゃなかった出陣!

 いやあってるか。


 蓮夏の街は大きくて港湾部と内陸部に分かれている。そしてその二つの地区を繋ぐように街の中央を大通りが通っている。


 まずは港の方へ。


 水夫たちのかけ声や市場でのやりとりで辺り一帯はとても騒がしい。そんな中で聞き耳を立てて、散策する。


 あまり耳寄りな情報がないなぁ。


「おいおい、聞いたか。景継の奴、魔物の素材の密輸でぼろ儲けしてるらしいぜ」


「ほんとかよ。それがばれたら、晒し首確定だぜ。

 証拠は残してないんだろうけどよ」


「あーあー、何処かに良い儲け話ないかなー?」


 そういう事ね。それは勝千代達が目を付けるはずよね。まずはあの二人を利用しましょう。


 頭巾を被り、口元を布で覆う。


 ガタイの良い2人の男に近づく。


「すいません。先程の芳田景継のお話、詳しく聞かせてもらえないですか?悪いようにしませんので」


「報酬とかあんのかよ。ただ働きは御免だぜ」


 やっぱり要求してきますね。どうしましょうか。


「私の計画がうまくいった場合、それで得られた利益をあなたたちに差し上げますよ。それでどうです?」


「計画ってなんだよ。それ次第だな」


 誰が聞いてるかわからないので、身振りで示す。首をトントンとしてね。


 その仕草をみて、2人の顔が青ざめる。


「そ、そんな仕事御免だぜ」


 逃げ出そうとする二人。このまま逃すと不味いわね。でも周りに人の目があるのは厄介。なら人気のないところに追い込みますか。


 逃げ出した二人を追いかける。私をまこうと人の少ない裏路地へ行ってくれた。ありがたいわね。


 裏路地に入って、相手を見失った振りをする。男たちも私が見えなくなったようで移動する速度が落ちる。そっと屋根の上に隠れる。後は男たちをつけていくだけだ。


 ここらの空間は把握済みだ。私をまけるとでも思ってるのだろうか。


 全く人がいない事を確認して男たちの目の前に飛び降りる。

 そして素早く剣を突きつける。

 私なんでこんなにアサシンになりきってるのかしら。私はあのゲーム好きだから楽しくて良いけど。


「悪いようにはしないって言ったはずよ。それに逃げても無駄って分かったでしょう」


 男たちは観念したようにうなだれる。


「なにをすりゃいいんだよ」

「面倒事だけは勘弁して欲しいんだが」


 二人そろって違う事を言う。私は聖徳太子じゃありません。私は音が被るとあまり聞き取れないんです!

 ムカついたので剣の先でゆっくりと首筋をなぞっていく。


「「わかあったあ!何でも言うこと聞くから、その剣しまってくれ」」


 よくできましたね。

 にっこり笑って要求を告げる。


「私の寝床を用意してくれない?

 それと逃走経路の確保ね。後はこっちでやるわ」


 二人ともポカーンとしてる。人殺しを依頼されるとでも思ったのかしら。


 ようやく再起動した兄貴分の男の方がしゃべり始める。


「俺らの住んでる場所で良いなら、寝床は大丈夫だ。だが逃走経路は難しいですぜ」


「なら寝床だけで良いわ。食事もつけるのよ」


「はぁ、ついてこいよ」

「はぁ、何でこんなことに」


 二人の男についていく。

 それからは雑踏をすり抜けて、西洋街区へ。辺りを観察する限りでは、明治初期の日本をモデルにしてるのかな。


 私たちの目の前を馬車が通り過ぎていく。

 ピーンと来た。この馬車は逃げるときに使えそうだ。


 その後は大通りにでる。あまり怪しまれたくないので、頭巾と布を外す。


 大通りには雑多な人が溢れていた。たぶんプレイヤーもここに含まれているのだろう。

 それにしても高性能NPCがまるで本物の人間が生きてるかのように振る舞っている姿は壮観だ。


 呉服屋の前で男たちが立ち止まる。


「ここの裏だ」

「いくぞ」


 裏手にはボロい二階建ての宿屋があった。


「表通りと大違いね。でも、日陰者にはぴったりね」


 男たちについて行って中に入る。男が女将に何か言ってる。たぶん私も泊めて欲しいって相談してるのだろう。こっちに男がやってくる。どうやら許可がでたようだ。


「俺らの部屋は二階の隅だ」


 ギシギシ音が鳴る階段をのぼる。本当にボロいな~。

 そして部屋も本当にボロかった。すきま風が入ってくる。こんな所でよく眠れているわね。


「お疲れのところ悪いけど、明日からの仕事の打ち合わせしましょう」


 気だるそうにする二人に、いらっとする。


「つつくわよ?」


 二人ともすくみ上がって、こちらに向き直る。


「なんだよぅ。疲れてんだよ」


「すぐ終わるわ。目標の屋敷の位置の情報と西洋街区の馬車庫と厩舎での細工についてね」


 屋敷の位置はすぐに教えてもらえた。港湾部の町外れにあるそうだ。

 そして、馬車庫と厩舎はそこからすぐ近くにあることも分かった。


「明日は下見に行くわよ。あ、大事なこと忘れてたわ。人相を教えてもらいたいの」


「一番大事じゃねえかよ。ったくなにしてんだか。

 おい、お前。絵を描いてくれ」


「へい兄者。景継の顔は特徴的だからすぐ描き終わりますよ」


 さーっと筆と墨で器用に描いていく。

 目標の姿はハゲたガマガエルのような男だった。これは間違えようもないわね。


 じゃあ、一旦ログアウトしましょう。


 ログアウトすると、ご飯にはちょうどいい時間だった。


 今日は簡単にミートソーススパゲッティを作る。トイレと歯磨き、ポッカリの補充を済ませて、ログインする。


 ログインすると真夜中だった。

 ちょうどいいわね。下見にいこうかしら。

 音を立てないように宿屋から抜け出す。

 屋根を伝って目的地まで一直線に向かう。

 屋根の上からの景色で分かったが目標の屋敷は夜でも、かがり火がたかれていて、異様に明るかった。

 やはり何かあるわね。場所も確認できたし、次は厩舎ね。


 西洋街区のはずれに立派な厩舎が建てられいた。馬車をくすねちゃいましょう。


 しばらくして、目標の家の近くに馬車を隠すことができた。馬具も拝借してね。

 まさか馬車を盗む輩がいるとは思っていなかったのだろう。あっさりと外に引っ張り出すことができた。


 下準備は完了ね。またあの宿屋に戻る。

 時間になるまで、家の掃除でもしときましょうか。



 ~~~~


 家のことを済ませて、またログインするとちょうど朝の十時頃でした。

 この二人にはお仕事があるので、さっさと起こしましょう。

 剣先でお尻をプスリ


「「いって~」」


「なにしやがるんだ、このやろう」


 あら、仕事を頼んでいたのに未遂行のあなたたちが悪いんでしょう。私の食事忘れてないかしら。


「あ、食事か。ちょっとまってろ」




 しばらくして男が戻ってくる。


「ほらよ。めしだ」


 投げ渡されたのは握り飯一つ。三人とも同じ量の白米だ。塩は効いていたので食べやすかった。あなた達も苦労してるのね。


「可哀想に思った私からのプレゼント、昨日の夜西洋街区から拝借した盗品の詰め合わせよ」


 男たちがギョギョッと驚く。


「そんな足の着く盗品よりも金を盗んで来いよ……」

「さらっと取ってきたって、この人……」


 馬車庫って警備されてないのよねー。余裕よ余裕。


「で、本題よ。今日の夕方、私は目標をしとめるわ。あなた達は馬を調達してきて欲しいの。

 このあたりに馬車を用意してあるから、一気にずらかるわよ。報酬はたくさんぶんどってくるから安心してね」


 男たちはげっそりした顔で呟く。


「やっぱり片棒かつがされるんじゃねーかよ」

「犯罪者の仲間いりかよ……」


 私の近くであんな話をしてたのが運の尽きよ。


「まあ馬の調達は任しとけ。そこは得意分野だ。で馬具はどうなってんだ?」


 にっこりほほえむ。


「ちゃんと盗ってきたから、心配しないで」


 呆れたようなうんざりしたような顔をする。失礼ね。

 まあ良いわ。じゃあ頼んだわよ。


 今度は犯行の準備を進める。しっかりとお面、頭巾、布を身につけてから、まずは表の呉服屋から丈夫な布を拝借する。そしてあの2人の為に、頭巾と布と服も調達。


 雑貨屋があったので、金品を詰め込む袋を頂いた。


 馬車の隠し場所を確かめて、先ほどの服はここにおいておく。

 書き置きで二人に着替えておくよう指示も出す。



 しばらく街の中を散策して景色を楽しむ。

 そろそろ良い頃合いね。

 西日がきつくなった時間帯をねらって、屋敷の西側の塀を越える。


 先ずは倉に行って金品を漁る。

 舶来品がたくさんあるわね。たかそうなものから頂きましょう。

 ささっと袋に詰め込んで、来たときと同じように屋根の一部を抜いて出て行く。

 豪快にいけるとこは行きましょうね。


 いったん外へ出て金品を隠しておき、再度侵入する。

 第六感が仕事してくれたので、警備兵の位置が完全に把握できる。

 スムーズに屋敷の屋内へ入ることができた。


 ターゲットのいる部屋は突き止めたので天井に忍んで移動する。


 丁度ターゲットの真上に位置すると、何か言ってることが分かった。


「アイツら、きちんと仕事もせんで、金ばっかり要求してきおって。魔物の討伐素材分の金しか払わんと言う契約を忘れたのか!足下を見おってからに」


 何か書類のようなものをまとめている。

 芋ヅル方式でお仲間を捕まえれそうだし、あの書類は処分される前に手に入れなきゃね。



 持ってきた帯状に加工した丈夫な布を取り出して、輪っかを作る。勿論引っ張ればその半径は小さくなるタイプだ。

 自分がいる梁の上から輪投げの感覚で目標の首にかける。声を出される前に、もう一方の布を持って梁から飛び降りる。


「ぅぅぅぅうぅ~~~」


「んっんっ………」


 もがき苦しんでたが、しばらくすると事切れた。

 嫌な感じがする。殺す側もきちんと覚悟をしないとね。ホーナーさんの言うとおり死がポリゴン片になって終わりなんて言う生やさしさじゃない。


 自身もこの道を進んでいく覚悟を決めつつ、証拠書類を手早く回収して、梁に布を固定し、自殺に装う。


 後は来た時と同じように出て行くだけだ。

 屋根を伝って行く。後はお気楽ね。


 門番をしていた兵士があくびをして、ちょうど上を向いたときに、私と目が合う。

 やば、油断してたわ。


「おい!屋根の上に変な奴がいるぞ。親方に知らせろ!」


 あちゃー、今ので偽装も意味なくなったわね。


 屋敷の中が急に騒がしくなる。遺体が発見されたのだろう。

 それから、わらわらと人が集まってくる。

 しょうがないわね。

 全力で屋根を走って勢いよく飛び出す。塀の向こうまで大ジャンプを決めて、隠しておいた金品を持ってずらかる。


「逃げやがったぞ!追えー!追えー!」



 馬車の隠し場所に行くと、すでに準備を完了した二人が待っていた。


「ほら戦利品よ。追っ手が来てるから、御者は頼んだわよ」


 さっと馬車に乗り込むと、兄貴分の男が御者をして、弟分が戦利品を大事そうに抱えて座席に座っている。


「嬢ちゃん!行き先は?」


 呆れた。昨日言ったじゃない。


「大通りを突っ走ってそのまま街の南に抜けて頂戴。そしたら、私の仲間がお迎えにくるわ」


「了解、じゃあ、派手にいくぜぇ」


 男が両手に持った綱で馬に合図を送る。四頭で引かれる馬車は凄い勢いで進み始める。


「そこのけそこのけ。カエルの子め。お馬が通るぞぉ」


 追っ手を散らしながら、ハイテンションのまま、突き抜けていく。

 街をでるところで検問をしている集団が目に入る。


「どうする。嬢ちゃん!」


「そのまま突っ込んで。後は私に任せなさい」


 腰に差した双剣を構える。


「そこの馬車止まれ。馬車の中身を改めさせていただく」


 私達の前に立ちふさがった男めがけて、投擲する。

 当たる自信はなかったんだけど、綺麗に口から喉へ貫通した。

 魔物を、いえ、妖を狩られるわけにはいかないの。

 夥しい血を流した死体をみる。私だって覚悟したわ。


 他の兵士はビビったのか道を空ける。思ったよりも練度は低いのね。

 脇にそれた兵士たちは薙刀で処理していく。


 あまりみない方がよろしい光景を撒き散らしながら、爆進して行くと、街の外へたどり着く。

 勝千代が呼びかけてくる。


「それ全部かい?」


「ええ、二人とも一緒に連れて行ってちょうだい」


「分かった。もう少し街から離れたら飛ばすね」



 そして、私達は馬車ごと狐の里に帰ってきた。


「はぁ、疲れたわ。あ、もう休憩するから先にこの書類渡しとくわね」


 勝千代に例の書類を渡す。


「これは……ありがとう。これで仲間たちを守れるよ。だからヨゾラはゆっくり休んでね。あとそちらのお二人も」


 あまり事態を把握していない二人を後目に私はさっさとログアウトする。



 ああ、疲れたわ~




作中でヨゾラがスキルを確認していなかったのでこちらで


【スキル】

薙刀見習い

初心者双剣使い

生活の心得

暗殺者関連技術


以上になりますね。これは任意で他人に見せることが可能です。

免許証の代わりですから。次は魔法が出てくると思います。

あとタレントはこの話の中では少な目でしたが、話がすすむにつれて、種類を増やしていこうかと思ってる次第です。この点に関しては作者の設定忘れが原因なので、きちっと修正していきたいと思います。


11/3 忙しすぎます!全然更新できなくて申し訳ない。

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