超過保護な元勇者のオッサンは望んでいたスローライフを即決でやめて義理の娘の旅に(無理矢理)ついていきます!
「本当に残ってはくれんのか?」
所々に豪華な装飾が見られ、家の一つや二つならば余裕で入ってしまいそうなほど大きな部屋の中。
その部屋の入り口からのびる鮮やかな深紅で見るからに柔らかな毛がもふもふな絨毯の先には、他より一段高い段差があり、その上には立派な玉座が。そう、ここはお城の玉座の間であり、この部屋の主である王に一人の男が謁見しているところだった。
「ええ、確かにここで騎士団の面倒を見るのも、中々楽しそうですが、昔からの夢ですので」
華美な装飾の施された服を纏ってはいるが、隠しきれないほどの人の上に立つ者としての風格を備えた精悍な顔つきの王の目の前で膝をつき、話をする男……年のころは三十過ぎだろうか、この世界では十分にオッサンに片足を突っ込んでいると見なされる男は、王へとにこやかに言う。
「ふむ……で、あるか……前からの願いであったからな……」
「はい、流石に血なまぐさい戦いからは距離を置きたく」
謁見としての体裁をもっているが、和やかに話は進む。
この二人は堅苦しい話をしなければいけないような仲でもなかった。体面を気にしての、王をたてる形なのだ。本来ならば、二人は友人と言っても差し支えなかった。
「うむ。お前が居なくなるのは寂しいが、引き留めるわけにもいくまい。……なあ、やはり嫁でも娶ってこの城に住まないか? 騎士団長の座も、今ならばお前のために用意も出来よう」
「引き留めないっつって即効翻してるじゃないですか……
言ったでしょう? 俺は田舎にでも引っ込んで鍬を振るうってのに憧れてたんですよ。戦いはもう疲れました」
男は呆れたように苦笑する。
「そうか……確かに、我々はお前に、もう十分すぎるほどに助けてもらった……これ以上は流石に頼りすぎか。……のう? 勇者セイドウよ」
この男……勇者セイドウは何も言わずに、口許を緩めにこやかに笑っていた。
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「くはー! 長かったなぁ! 何年だ? んー……もう十数年か。俺が勇者として魔物との死闘を始めてから」
セイドウは、王都から離れた街道を一人、伸びをしながら歩いていた。
「だが、そのお役目もやっと終わり、これからは俺の求めていた、のんびりと田舎で畑を耕したり昼寝したりのスローライフが出来る! ふふふ……この時のために事前に調べはしてある。俺の理想通りの環境はこの間一回だけ行ったあの村の近くの……」
そこでふと、セイドウの足が止まる。
「ん……?」
セイドウは勇者であるが、この称号は決して伊達ではなく、そこらの冒険者や魔物ならばいくら束になっても傷をつけられない程度には強い。
そして、そんなセイドウの並外れた五感はこの道の遥か先にある異常をセイドウに伝えていた。
「……しゃあねぇ。行くか……手遅れでも恨むなよ」
少し悩んだあとに、溜め息を小さくこぼし、誰にともなく呟くと、爪先で地面をタンタンっと叩いた。
すると、その場からセイドウの姿は一陣の風を残してなくなった。
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何もないところにセイドウが、風を引き連れて現れる。
「あー……これは、間に合わなかった、か?」
頭をくしゃくしゃと掻く。
視線の先には、大破した馬車の残骸が。
「大方、魔物にでも教われたか、馬車でも壊す主義の盗賊にでも襲われたか? いつ壊されたか……少なくとも一時間は経ってるよな」
どうやら、間に合わなかったらしい。セイドウの感知した異常はこの壊れた馬車であるようだ。
「生存者はなし……いや、これは…?」
セイドウは視線をさ迷わせると、バラバラの馬車の残骸の中から光が漏れ出ているのを見つけた。
「!」
急いで駆け寄り、人外じみた腕力を使って残骸を掻き分ける。
掻き分けていくうちに、光の元が見えてきた。どうやら、宝玉のようだ。そして、見つかったのは宝玉だけではない。
掻き分けるほどに見えてきたのは、少女だ。
薄い光の膜に覆われ、目をつぶっている。
やがて、すべての残骸を脇に退けた時、光の膜に包まれた少女の全貌が見えた。
年は十程の美しい少女であった。
その少女の胸元に抱かれるように光る宝玉があり、セイドウが確認すると、砂になるように空気にとけていった。
「こりゃあ……持ち主を死の危機から一度だけ守り、そして自らが光って、持ち主を救ってくれる人を導く国宝級のアイテムじゃねぇか……」
宝玉が跡形もなく消え去ると、少女を守っていた光の膜も空気にとけるように消滅した。
「お疲れさん。ちゃんと見つけたぞ」
消えた宝玉に向け、呟くと、向き直り少女の容態を素早く確認する。
「……どうやら、気絶してるだけみたいだな。目立つ外傷もない」
ほっと息を吐き出す。
「んん……」
すると、少女がわずかに身じろぎした。
「おっ、目が覚めるのか? おーい、大丈夫かー?」
セイドウが声をかけると、少女はゆっくりと目を開ける。
「ん……………………誰?」
開いた瞳をぼーっとさ迷わせた後に、一言。
「おっ、起きたか。状況はわかるか? 俺はセイドウっていうんだが」
少女は目をパチクリした後に、大きく目を見開き、バッと起き上がった。
「だ、だれぇ!?」
「だから、セイドウさんだ」
これが二人の出会いだった。
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「起きてー!」
湖の畔にある小屋に声が響く。
「お父さん! 起きて! もうお昼になるよ!」
「あ、あと5時間……」
「夜になるよ!? 起きてー!」
ベッドの上の塊を揺り動かすのは美しい少女だ。十代後半に見える。
「……だがな、ソフィ?」
ベッドの上の塊……セイドウは真剣な声音でソフィと呼ばれた少女に話しかける。
「な、なに…?」
その真剣な様子に思わず喉を鳴らすソフィ。緊張が伝わってくる。
「……」
「……」
「……ぐう」
「寝てる!? 起きてよー!」
こうしてこの親子の騒々しい一日が始まる。
ソフィと呼ばれた少女は、セイドウが馬車の残骸の中から拾った少女だった。彼女は、両親を赤子の頃に亡くし、引きとられた家では少々肩身の狭い思いをしていた上、その村さえも魔物の被害で半壊したために、育てられた家の家族から少しばかりのお金を渡されて、事実時上追い出され、王都へと向かっていたところだった。
そこで、乗り合いの馬車が大型の魔物に襲われ、乗っていた人も全滅……となるはずだったのを、冒険者だった両親の唯一の遺産である宝玉が発動し、セイドウに助けられたという経緯だった。
行く宛もなかったソフィはセイドウに保護されることになったのだった。
それから、月日は流れる。
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「ふわぁ~」
セイドウは大あくびをしながら居間へとやって来た。
「もう、お父さん、あくびして、だらしないよ? 寝癖も酷いし」
セフィがセイドウを嗜める。
セイドウとソフィは親子として暮らしている。幼いうえに、親の愛情を殆ど知らなかったソフィには親が必要だとセイドウが思ったため、そうしているのだ。
セイドウはソフィが幼女だった頃から殆ど見た目は変わっていない。これは、勇者であるため持つ莫大な魔力が故だ。
「いや、そんなこと言ってもな……昼間まで寝られるこの幸せを存分に噛みしめないと」
セイドウは緩慢とした動きで朝食(昼食?)が用意されているテーブルへとつく。
「それ、私の知っている限りほぼずっとなんだけど?」
ソフィがジト目で言う。
「いや、お父さんにも昔は頑張ってた時期があったのさ……」
ソフィのジト目に対し、セイドウは遠い目で言う。
「いや、お父さんが凄いのは疑ってないけどさ」
「そうだろう? お父さんも昔はなぁ……」
サラダにフォークをさしながら語ろうとすると、
「昔は昔はって、オジサンぽいよ?」
ソフィは小さく笑いながら指摘した。
「!!??」
朝から義理の娘の一言に衝撃を受けるオッサン。
思わず固まるセイドウに、
「あっ、そうそう、私、旅をすることにしたから」
ソフィは何でもないように、さりげなく告げる。
「!!??」
しかし、元勇者の思考力、判断力、聴力もろもろが、その話をスルーすることを許さない。
「ど、どういうことだ? そんな大事な話をあっさりと流すわけないだろう? 詳しく」
汗をダラダラ流しながら聞き返す。
「私の両親……お父さんじゃなくて、産みの親の方ね? その両親が冒険者だったみたいだし私も冒険者になってみたいなーって。それに、私も世界を見て回りたいし?」
小首を傾げてパンをくわえる。
「……どうしても?」
「どうしても」
ソフィの目をジッと見るセイドウ。
「……なら! 俺も一緒に行く!!」
急に立ち上がり、拳を振り上げる。
「えぇ? お父さんも?」
「ああ、そうだ! 外の世界には何があるかわかんないんだぞ!?」
「いや、でもお父さんと二人旅って……」
「なに!? お父さんが一緒じゃ嫌なんですか!?」
「い、嫌じゃないけど……」
「じゃあいいだろ!? きまり!」
「えぇ? しょ、しょうがないなぁ……」
ソフィは仕方なさそうな態度はしているが、頬が若干緩んでいる。何だかんだで、ついてきてくれて嬉しいようだ。
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それから、親子の旅が始まった。
「お父さん、魔法を使って一瞬で街まで行こうとするのをやめてくれるかな? 情緒がないよ」
呆れ顔でソフィは言う。
「ん? そうか? じゃあ歩くか?」
「うん!」
セイドウとソフィとで並んで街道を歩く。
親子水入らず、二人で会話をしながら進んでいると、
やがて、一匹のスライムが現れた。
するとその瞬間、
「エクス、カリバァァアア!!」
ドカーーン!!
という爆音が辺り一体に響き、煙がたつ。
ソフィの頬がひきつる。
煙が晴れると、そこには剣を振り切った姿のセイドウと、その前方に広範囲で抉れた地面が残るだけだった。
「ふう。危ない危ない。折角の旅立ちをスライムに邪魔されるところだった。スライムに触ってソフィの肌がかぶれるといけない」
やりきった顔のセイドウ。ソフィの顔は更にひきつる。
「……お父さん?」
ここから、セイドウの過保護は加速していく。
「お父さんがこんなに強かったとは……」
果たして、二人の旅路は平穏無事にいくのだろうか?
好評なら、連載にするかも。
この旅を本格的に書いたり、スローライフ中の話を書いたり。
ブクマ、感想、評価、レビュー欲しいです(´-ω-`)