目覚めと約束
人様を巻き込んだ壮大なラブロマンス、というのは、大泣きするスラシルを見たヴェルンドの言葉であった。まさにその通り、と彼と被害者の会を結成しようかと考えていたイズンは、笑いながら大きく頷いた。
リーヴは自分の気持ちに気づくのが遅過ぎたのだ。違う相手を抱いてから気づく恋物語など、とんでもない話である。救いだったのは、その体だけは想い人であったことだ。それにスラシルには、行為に及ぶ機能がまだなかった。イズンの中であの夜は、未遂として片づけられている。正直、自分が舞い上がってしまっていたことも否めなかった。恥ずかしさは、どちらかというと自分の浅はかさにある。
「やっぱり、体と心がばらばらなんてアンバランスね。こんなややこしいことになってしまうなんて」
サイバー空間へと戻ったイズンは、モニター越しにリーヴとスラシルを見つめながら呟いた。リーヴと触れ合えたことに舞い上がってしまったのは、自分が長らく己の肉体を離れていたせいだ。結果的には丸く収まったものの、リーヴとスラシルのすれ違いを加速させたのも、スラシルとイズンが入れ替わってしまったせいである。
「俺はまっぴらごめんだね」
肉体と精神は同じところにあるもんだ、とヴェルンドは肩を竦めた。イズンは、私もそう思っていたはずなのに、とくすくす笑った。やはり、心は体を離れてはいけないのだ。
「私も早く、目覚めなきゃ」
夢心地であった恋も冷めたところで、イズンは目を覚まさなければならない。人類の地上帰還は間もなくである。きちんと自分の体で、リーヴとスラシルに会いたかった。
ようやく洗浄用水を排出するのをやめたスラシルの瞳は、綺麗に洗われていた。澄み渡る薄荷の瞳が、もう手の届かない場所にあるのだと思うと、少しだけ寂しいような気もする。
「イズン、ありがとう。それから、ごめんね」
「ううん、いいの」
簡素な言葉を交わした。本当はこちらも感謝と謝罪を伝えたかったのだが、あまり良い台詞が浮かんでこなかったのだ。これではリーヴのことを笑えない。けれどこれだけは伝えなくては、とイズンは微笑んだ。
「私、あなたのことをとても素敵な人だと思うわ」
だから幸せになって、と。スラシルは驚いたように目を丸めて、それからくしゃりと破顔した。
人類は新たな安息の地、ユグドラシルの大地に立つ。半世紀の夢をさ迷った少女は、澄んだ青空を彷彿とさせる瞳を輝かせ、ブロンドの髪を揺らした。
彼女は二人の友人と、その身体を持って会う約束をしている。
(完)
タイトルの読めないこのお話、完結です(笑)
途中、スラシルのスノードームのくだりで登場した歌の歌詞が、一応タイトルの意味となっております。フランス語の授業で先生がお話されていた小ネタだったのですが、気に入ってタイトルに…。間違っていないか、ちょっぴり不安です( ̄▽ ̄;)
リーヴとスラシルのような二人組が好きなのですが、今回はそこにイズンという天真爛漫な少女が介入し…人とロボットだからこそ起きたややこしい恋の話になったかな、と個人的にはお気に入りの作品となっています!
少し長めのお話でしたが、最後までお付き合いくださり、ありがとうございました!
ご意見・ご感想等いただけると大変励みになります…(uωu*)
年明けに、また何か短編を掲載できたらよいなと思っております。
それでは、よいお年をー!