表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/8

刹那的バイオレンス

 縁側に転がる私。右腕には鈍い痛み。心臓の鼓動。乱れた呼吸。全て私のものだ。


 彼女はしゃがみこんで私の顔を撫でた。正確には、ひょっとこ面を。そうしてぼそりと呟いた。


「ちゃんと仮面を守ったじゃない」


 冗談じゃない。


「反射的な防衛だ。ひょっとこを守ったわけじゃない」


「なら、今度は守らないで」と言って腕を引く。拳が握られる。頬が強張(こわば)る。


 私がなにか言う前に拳は振り下ろされた。咄嗟(とっさ)に身をよじった私は、勢い余って地面に落ちる。拳が床を打つ固い音が月夜に響いた。躊躇(ためら)いのある響き方ではない。どうも彼女は本気で私のひょっとこを叩き壊そうとしているようだ。


 立ち上がりつつ、私は叫ぶ。足の裏に小石が刺さったのか鋭く痛んだが、それどころではない。


「やめたまえ! 狂っているのか、君は!」


 彼女は肩で息をしている。肉体が華奢(きゃしゃ)であることには変わりないのだ。


「もっと自分を大事にしたまえよ。どうかしている」


 彼女はぐったりと座り込んだ。しかし、その目は私を見据えていた。随分と虚ろな眼差しである。力を使い果たしたのか、おこないのくだらなさに思い至ったのかは分からない。ともかく、もはや彼女から暴力の気配はしなかった。


 しばらくの間、僕と彼女は向かい合っていた。目を離してはならないような危うさがあったのだ。


 長い沈黙ののち、彼女は深く長い溜息をついて目を(つむ)った。それを合図にするように、私は彼女の隣に戻ったのだ。


 そして壬生は、ぽつりぽつりと語り始めたのだった。


 その時の彼女の心情がいかなるものであったか、それを語る資格を私は持たない。ただ私の事実のみをキミに伝えよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ