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プロローグ ~コメディについて~

 昔からコメディ映画が苦手だった。ブラウン管の中でおどけてみせる俳優の姿は、小さい頃からどうにもしっくりこなかったのだ。


 はじめて観たコメディは「マスク」だった。


 ジム・キャリー(ふん)するマスクの怪人が欲望のままに振る舞いつつも悪党退治をするという筋書きなのだが、面白おかしく立ち回る彼の表情や仕草になぜだか私は哀しみを覚えたものだった。勧善懲悪(かんぜんちょうあく)、超人的な力、ハッピーエンド、なにひとつ(うれ)いのないストーリーなのだが、不思議と私は笑うことなく彼の一挙手一投足を見守り続けたのだ。

 今にして思うと、二重の仮面の下を想像して無暗(むやみ)に同情していたのかもしれない。同じ理由で「トムとジェリー」も好きではなかった。


 喜怒哀楽のうち、「喜怒楽」が画面の中に大写しで展開され、「哀」はムービーの奥に閉じ込められて叫び声を上げているような、そんな感じがする。多くの人は「喜怒楽」を受け取ってあっけらかんと笑うのだろうが、特殊な電波を受信できる一部の人にだけその「哀」の絶叫が届いてしまう。オンオフのスイッチを想像してみると丁度良いかもしれない。片一方に傾けば、もう一方は作動しなくなる。逆もまた(しか)り。中間は存在しない。


 これも子供の頃の話だが、家の廊下にある電燈のスイッチを丁度中間でキープできないか試したことがある。結果から言えば、スイッチは中間をキープできたのだが私は落胆を覚えたものだ。というのも、そのスイッチを中間でとめれば、電燈の(あか)りも中間程度の光量になると思ったのだ。古いスイッチだったので、注意しながら調整すれば中間でとめることは難しくなかった。結果としては(とも)るか消えているかの差でしかなく、我が家の廊下のスイッチの中間は、オフの側に作動するという事実だけ知ることとなった。


 それらから得た教訓は、物事を額面通りにのみ受け取れる側と、裏面(りめん)に心が吸い込まれて率直に把握のできない側とが分かれているということであり、双方は究極的には理解し合えないということだけだ。現実は常に月並みである。


 キミも(おおむ)ね同意してくれることと思う。


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